一方で、本業で稼いでいるキャッシュフローにあたる「営業活動によるキャッシュフロー」は8602億円です。これは絶対額としても、キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー÷売上高)から見ても、かなり高い水準ですが、投資額から見れば十分ではありません。つまり、子会社への投資をしなくても、稼ぐ金額よりはるかに多い設備投資を行っているというわけです。これらの数字を見ると、携帯電話事業がどれだけ「金食い虫」かお分かりになると思います。
当然、これではおカネが足りません。その部分は、財務キャッシュフローで賄っています。「長期有利子負債の収入」が4兆6982億円。これは、長期有利子負債を借りた分です。一方、長期有利子負債を返済した金額を示す「長期有利子負債の支出」は、マイナス1兆9715億円計上されています。つまり、差額の2兆7267億円を長期の借り入れの増加でファイナンスしているというわけです。
そこでソフトバンクは、業績が芳しくないスプリントについて「Tモバイルと統合させて、収益力を高めよう」と考えました。
収益性を高めるために最も効果的なのは、コストの削減です。2社を統合すれば、基地局などの設備を共同で使うことができます。2つの基地局が1つで済んでしまいますから、設備投資を大幅に減らすことができるのです。
この戦略は、賢いものだったと思います。ただ、ソフトバンクはこれまでもリスクをかなりとっていますので、Tモバイルとの合併による、戦略上の優位性が現実化し、ひいてはキャッシュフローの改善がもたらされるまでは、リスクがさらに高まっていた可能性があったのです。
確かに、同社はリスクを高めているとは言え、収益力の高い企業です。先ほども少し触れましたが、営業キャッシュフローを十分稼げているかを示す「キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー÷売上高)」を計算すると、12.9%になります。この指標は、私の経験上、7%以上あれば好調だと判断してよいものです。したがって、ソフトバンクのキャッシュフローを「稼ぐ力」は、投資のことを考慮しなければかなり高い水準だと言えます。
孫社長は、収益性の高さを武器に、買収を進める戦略をとり続けてきました。ただ、その投資額が、やはり大きすぎる傾向があったのです。
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