岸田奈美さん「家族の一大事も10年後には笑い話」 人気作家が考える「今」を乗り切る思考法とは?
最新刊『傘のさし方がわからない』では、こうした出来事をきっかけに、「家族の未来」にも話が広がっているのが特徴です。
「自分が人にいちばん優しくできる距離を探ること。それが家族の本当のあり方だと思います。いつも寄り添って一緒にいるばかりじゃなく、時には相手の問題に干渉しないこともあるし、育児も介護も他人に頼ってなんとかする。そこに後ろめたさを感じる必要はないと思います。
そういう私も、どうしてみんなみたいに幸せそうな家族じゃないんだろうと思ったこともありました。でも、幸せそうに見える人でも、それなりにいろいろ悩むことはあるはず。作家・トルストイは、小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭で、『幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである』と書いています。そのとおりなんですよね」
岸田さんや家族に起こったことだけを見れば、とてつもない苦労があるはず。でも、これが岸田さんの文章を通すと、「泣き笑い」と大きなエネルギーに変わります。
「私のエッセイのスタイルは、しんどいこと、そこから出合えたうれしいこと・好きっていう気持ちを、丸ごとおすそ分けする感じです。弱音を吐くし、落ち込んだこともそのまま書きます。それは、家族のことで大変なとき、人に助けを求めるいい練習にもなりました」
「素直に人に助けを求める」才能があれば生きていける
「私にとって、書くことは呼吸をすることと同じ。つらいこともここで笑い飛ばしながら、これからも書き続けていくでしょう。お酒を飲みながらしゃべっている感じに近いです。
とはいっても、書くことにすごく才能があるというわけではありません。けれど、“ものを見る視点が面白い”と言われたことはあります。確かにそうかもしれません。そして、何かあったら素直に人に助けを求めることができる。書くネタがなくなったり、ド炎上して職を追われても、このふたつがあれば、いつどこに行っても、なんとかなるものです。
“面白い視点”というと難しく感じるかもしれないけれど、“心が楽になるようにものごとをとらえる”と置き換えては、どうでしょう。すぐにはできなくても、筋トレと同じで、繰り返すうちに、だれでも自然とできるようになりますよ」
そんな「視点」を身につけると同時に「書くこと」を目指している人にはこうアドバイス。
「起承転結をつけようとか、完璧なものを書こうとか、考えなくていいと思います。大事なのは感情。正直に感じたことを書いていければ、それだけで面白いし、たとえ人に読まれなくても自分の心の整理になりますよ」
(撮影/黒石あみ 取材・文/南 ゆかり)
1991年生まれ、神戸市出身。家族構成は、下半身マヒで車いすユーザーの母(ひろ実)と、生まれつきダウン症で知的障害のある弟(良太)。2020年9月に初著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』発売。最新刊は『傘のさし方がわからない』(ともに小学館)。
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