「売れない52歳芸人」が仕事ほぼゼロでも食える訳 「コラアゲンはいごうまん」という生き方

✎ 1〜 ✎ 15 ✎ 16 ✎ 17 ✎ 18
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

以前から言われてきた説教が、コロナ禍でようやく実感を持って、コラアゲンさんの心を殴ったのだった。「これまでと違い、密着取材せずにつくった今回の女王様のようなネタも、もっと早くするべきでした。新しいことをすると、その日はスベるかもしれない。けれど未来が宿っているのは、スベる挑戦のほうなのですから」と、しみじみ語った。

コラアゲンさんが今憧れ、目指す人物がいる。阿佐ケ谷駅の駅前にいる、ビッグイシューの販売員Tさんだ。コロナ禍で人々が家にこもると、ビッグイシューが売れず、収入は絶たれてしまうのでは。しかもTさんはホームレスで、衣食住が確保されていないため、死活問題のはず。そう考えて密着取材を始めたコラアゲンさんは、意外な事実を知った。

「Tさんのビッグイシューの売り上げは落ちていなかったんです。コロナ前、よく売れるのはオフィス街で、住宅地の阿佐ヶ谷はもともとそんなに売れなかった。でも、数は少なくても、Tさんには固定客がいてはるんです。コロナになっても、その方たちが心配して様子を見に来たり、差し入れをしに来たりするから、あまり影響を受けていないんですね。僕も自分の芸を見に、何度も足を運んでもらえるような芸人になりたいと思いました」

新しいチャレンジをしながら全国ツアー再開も目指す

心のどこかでは、テレビのゴールデン番組にレギュラー出演するような、全国区の芸人に憧れている。けれど、自分の芸風やキャラクターを客観的に見て、それが難しいことも理解している。だからこそ、コラアゲンさんはビッグイシューの販売員に自分を重ねたのだ。全国ツアーが中止になってからの支援者たちの行動が表しているように、彼は着実に“理想”へと近づいている。

この連載の一覧はこちら

余談だが、Tさんとの間にこんなエピソードがある。あるときTさんに、大手新聞社から取材の打診があった。身バレを防ぐため、普段ならすべて断っていたのだが、「この芸人さんも取り上げてくれるなら」という条件付きで、Tさんは取材を受けたのだ。結果、その新聞社の別企画でもコラアゲンさんは記事になり、Yahoo!ニュースのトップに掲載されたのだった。

「Tさんが僕を気にかけて、売り込んでくれはったんです。自分も大変やのに、人に手を差し伸べられるなんてほんまに格好いい。当たり前の話ですが、職業や肩書や容姿で人は判断できないですね」

コロナが明けたら、支援者への恩返しも兼ねて、今度こそ全国ツアーを再開させたい、とコラアゲンさん。また、これまでの努力不足を猛省して、企業向けの講演という新しいチャレンジもすでに始めている。数々の密着取材から得た学び・教訓を、仕事や人生に役立つ内容にアレンジして届けるというものだ。そう話すコラアゲンさんの表情は、新しいネタを考えているときのように生き生きしている。

「コロナの今がチャンス、と言ってくれた人がいたんです。豪華客船に乗っていた勝ち組タレントが、荒波で海に落とされて、丸太をこいでいた君と横一線になった。こんなときこそ、大どんでん返しが起こるかもしれない、と。確かにそうですよね。新しい発想で、能力をみがいて、挑戦しないといけないですね」

オンラインが普及し、人気タレントとも気軽につながれる時代になった。だが、本当の人間関係がそこにあるとは限らない。知名度が高くなくても、SNSのフォロワーが多くなくても、血の通ったつながりに支えられ、コラアゲンさんはコロナ禍を生き抜いている。そして、新しいステージへも踏み出そうとしている。売れない芸人は、幸せな芸人でもあったのだ。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事