確かに、給付金を課税対象とする仕組みは、わが国にもある。例えば、コロナ禍においても、収入が減少した事業者に対して1事業者に最大200万円を支給した持続化給付金や、休業要請に応じた事業者に対して支給された休業要請協力金は、課税対象となっている。これらを受け取った事業者は、納める所得税を計算する際に、これらの給付額を所得に算入しなければならない。
だから、「給付金を課税対象にすることは可能である」と思ってしまう人も多いだろう。
しかし、税制や税務を深く知っていれば、なぜ持続化給付金や休業要請協力金なら課税対象にできるかが理解できる。これらの給付金が課税対象にできる理由は、受給した個人はほぼ、確定申告するからである。
具体的に言えば、課税対象としたこれらの給付金は、大半を事業所得や雑所得として得ている人に配られたのであって、給与所得しか得ていない人には配られていない。給与所得しか得ていない人の大半は、確定申告をせず、所得税を源泉徴収されて納税が済んでいる。
確定申告をする人を前提とした給付金であれば、給付金の受け取りをきちんと経理したうえで、納める所得税の額を算出して、書類を税務署に提出する。だから、給付金を課税対象にできる。
しかし、所得税を源泉徴収されて確定申告しない人に、給付金を配って、それを課税対象とすることは、実務的に極めて困難である。
もちろん、源泉徴収で納税が済んでいる人にも確定申告を求めれば、給付金を課税対象にできる。しかし、給付金をもらうために、これまで源泉徴収で済んでいた人に確定申告を求めれば、多くの人にとって面倒極まりないこととなる。加えて、わが国の税務署の今の態勢では、多くの納税者に確定申告を求めれば、税務署の業務がパンクする。電子納税が進んでいるとはいえ、確定申告の内容を確認するのは人である。
年末調整では対応できないか?
では、源泉徴収される人には年末調整で対応するというのはどうだろうか。
そもそも、給付金を受け取るには、受給申請をしなければならない。つまり、対象者全員に自動的に支給されるわけではない。そのうえ、確定申告しない人は、多くの場合、勤務先で年末調整をして、年間の所得税額を確定させる。その際に、勤務先に自らが給付金を受け取ったことを示す書類を提出しなければ、給付金を課税対象に含めることはできない。
申請なしに自動的に給付されるならば、対象者は全員給付を受けているはずだと見なして、年末調整に該当者の給付金を課税対象として計算すれば簡便に作業が済むものの、給付金は受給申請しなければもらえないから、給付金を対象者全員が受け取ったと見なすわけにはいかない。年末調整の作業は、勤務先での経理担当の負担によって成り立っているわけで、給付金を課税対象にすることによって、その作業負担を過重にするわけにもいかないだろう。
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