懐かしい「子供番組」の歴史で見えたテレビの課題 動画配信時代に埋没しないために必要なこと

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これまで、子ども番組を“子どもが見る番組”として捉えてきた。ここからは“子どもが参加する番組”として捉えてみたい。

かつて日本PTA全国協議会による「ワースト番組」の常連だった「8時だョ!全員集合」(1969年・TBS)は、関東近郊の市民会館など公共施設に観客を集め、毎回生放送だった。子どもたちは、「全員集合!」「オーッス!」の掛け声と繰り広げられるコントの笑いで、満たされた時間を過ごしたことだろう。

この手法は、変身ヒーローものの「突撃!ヒューマン!!」(1972年・日本テレビ)でも使われた。特撮ではなく客席とテレビの前の子どもたちが変身を促すサインを送るという実験的な演出を交えた公開舞台劇は、「仮面ライダー」の裏番組ゆえ振るわずわずか3カ月で終了したが、ただ見るだけではない“主体性”を持ち込もうという意欲作だった点は評価されていいと思う。

「おはスタ」の前進番組は当初、主婦向けだった

テレビへの参加といえば、いまも好評放送中の「おはスタ」(1997年・テレビ東京)の前身番組に「おはようスタジオ」(1979年)がある。当初は主婦向け・子ども向け情報番組だったが、間もなく子ども向けに特化した。

この“初代おはスタ”が2000年に開局35周年記念の特別番組として一日だけ復活したとき、1980年の新年特番で保管したタイムカプセルを20年ぶりに開封、元の持ち主に戻そうという企画があった。スタジオでは当時の司会陣が集まり、番組を代表する曲『わんぱく宣言』の大合唱となった。ありがちなタイムカプセル開封の儀式をマスメディアであるテレビが愚直に行ったことは、“かつての”子どもたちの心にしっかり響いただろう。

また、中部日本放送は2011年、開局60周年記念として「オトナの天才クイズ」を放送した。これは当時、局が視聴者に「やってほしいこと」を募ったところ、1967年から37年間も続いた「天才クイズ」の復活希望が多かったのを受けて企画された。会場の参加者は大人でも、番組に親しんでいたころの童心に戻って、楽しそうに○×の札を掲げていたという。

こうしてみると、子ども番組はけっして「点」ではなく、幼い(若い)心の中に刻み込まれ、長く記憶される「線」であるという“本質”が見えてくる。

いま見渡すと、子どもが参加できる番組は群馬テレビ「ポチッとくん体操」や千葉テレビ「チュバチュバワンダーランド」などわずかだ。地方局や独立局がテレビの本質ともいえる「参加する興奮」「出場する喜び」を忘れずにいることはじつに頼もしいが、全般的に見れば退潮はあきらかだ。そして、子ども番組はほとんど選択肢のない狭い領域・狭い時間帯に追いやられてしまった。

ほんとうにこれでいいのか。動画配信サイトが台頭する今、子どもにかぎらず視聴選択のなかでテレビが埋没しないためには、「コンテンツ」ではなく「番組」、それもテレビならではの一体感を得られる仕掛けが必要なのかもしれない。子ども番組の歴史を振り返ってみて、そんな思いを強くした。

小林 潤一郎 文筆業

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こばやし じゅんいちろう / Junichiro Kobayashi

1965年生まれ。幼稚園児のころ、近所の幼なじみが「ピンポンパン」に出ておもちゃをもらった悔しさは、「クイズタイムショック」全国高校生大会出場で晴らしました。

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