ということで、筆者は矢野論文の勇気を大いに買いたいし、財務省内部の士気も上がっているだろうと思うのだが、中身に関してはいささかオールドファッションな議論ではないかと受け止めている。
ごく単純な事実として、もしも財政再建を急ぐべきだとしたら、政府が借金のカタとして発行している国債の値段はなぜ暴落しないのか。「このままではいつか破綻する」と矢野氏も小幡先生も力説するけれども、日本国債の利回りはゼロ近傍で推移している。
仮に今日、10年物国債を発行して10兆円を借りたとして、10年後に返済する金額は限りなく10兆円に近いはずである。だったらもっと借りていいじゃん?大事なのはおカネの使い道でしょ?という素朴な疑問に対して、どう答えたらいいかは意外と難問である。
オバマ時代とバイデン政権「3つの考え方の違い」
ちょうど現在、アメリカ議会では2つのインフラ投資法案の審議が進行中だ。現在のジョー・バイデン政権を支える民主党の政策スタッフたちは、以下のような点でかつてのバラク・オバマ時代とは明らかに違う考え方をしている。
(2) 社会政策によって貧困対策を進めたからと言って、労働意欲を損なうことはない。最低賃金の引き上げがかならずしも雇用の減少をもたらさないことは、今年のノーベル経済学賞(デビッド・カード、ヨシュア・アングリスト、グイド・インベンス)の研究でも取り上げられている。
(3) 新規の歳出は、かならずそれに見合う歳入を確保すべきという「ペイゴー原則」(Pay as you go)は、今の時代に適していない。
オバマ政権が「オバマケア法案」を成立させた2010年頃は、これとははっきり状況が違っていた。当時はギリシャなどの欧州債務危機が世界経済の最大のリスクであり、財政の持続可能性を問う声が強かった。日本でも、それを契機として消費税増税の議論が始まっている。ところがそれから10年、各国がいくら財政赤字を増やしても、超低金利の状況は変わっていない。だったらそんなに心配は要らないのではないか、と認識が変化したのである。
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