矢野財務次官の「バラマキ批判」に欠けている視点 「政府の借金」への認識はこの10年で変わった

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政府予算というものは、かつては大蔵省主計局が細部までビシッと詰めるものであった。それが変わり始めたのは2001年の省庁再編からだ。首相直属の経済財政諮問会議において、「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太方針」)で骨格を定め、具体策を財務省が決めるという分担になった。ちなみに、「骨太」という言葉を考案したのは大蔵省出身の宮澤喜一財務大臣で、その真意は「予算編成の実務には手を触れさせませんからね」(神は細部に宿る!)であったともいわれている。

ところが、この作業を20年も続けていると、本当に予算編成が「官邸主導」になってきた。安倍晋三内閣の最後の頃にもなると、財務省が官邸に「すり寄る」ようになっていた。2019年に消費税を10%に増税したときは、増税分1%に相当する2兆円を教育無償化に振り向けてくれた。また、同じ時期に導入されたキャッシュレス決済においては、中小事業者向けに最大5%の還元を大サービスした。あの「しぶちん」の財務省にいったい何が起きたのか、と個人的に不思議に感じたものである。

矢野氏が事務次官に起用されたワケ

実はこの間に、かつては「官庁の中の官庁」と呼ばれた財務省が、経済産業省出身者の多い「官邸官僚」たちに歯が立たなくなっていた。「財政重視」の財務省が、「成長重視」の経済産業省の軍門に下ったと言ってもいい。

いや、それだけなら単に霞が関という狭い世界の中の話である。ところが、財務省が安倍官邸の歓心を買おうとして「森友問題」では限りなく虚偽に近い答弁を繰り返し、しまいには決裁文書の改ざんをやらかしたとあっては洒落にならない。かつては霞が関を睥睨していた財務省の威光は地に落ちたのである。

これを再生するには、尋常のやり方では覚束ない。そこで非常時の事務次官として起用されたのが、誰にも「忖度しない」異色官僚、矢野康治氏であったというわけだ。だから矢野論文の中には、「これまでの財務省は、政治家に対して言うべきことを言ってこなかった」という無念の思いが込められている。以下のくだりは矢野氏の文字通り「心の叫び」であろうが、その中には過去の先輩たちへの「怒り」が込められているのではないかと拝察する。

猛省の上にも猛省を重ね、常に謙虚に、自己検証しつつ、その上で「勇気をもって意見具申」せねばならない。それを怠り、ためらうのは保身であり、己が傷つくのが嫌だからであり、私心が公を思う心に優ってしまっているからだと思います。私たち公僕は一切の偏りを排して、日本のために真にどうあるべきかを考えて任に当たらねばなりません。

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