投票前に知ってほしい「政治と金」問題頻発の根本 期待できない自浄作用、有権者にできること

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――政治団体は企業献金を受け取れないからパーティーを開くわけですね。でも、「政治家は企業からお金をもらっている」とよく聞きます。企業献金です。これはどういうことですか。

先ほども言ったように、政治資金規正法で政治団体は企業献金の受け取りを禁止されています。しかし、政党支部は企業献金の受領を認められていますので、政党に所属している国会議員は支部長(代表)になって、企業献金を政党支部で受け取ろうとするのです。

――もし、パーティー券の販売収入を超える経費がかかり、政治団体側が赤字になってしまったらどうなるのでしょうか。

それが「安倍晋三後援会」が開いた「桜を見る会前夜祭」の場合です。

上脇博之(かみわき・ひろゆき)/1958年7月、鹿児島県生まれ。関西大学法学部卒。神戸大学大学院法学研究科博士課程単位取得。専門は憲法学。北九州大学(現・北九州市立大学)法学部教授を経て、2004年から神戸学院大学大学院実務法学研究科教授、2015年から神戸学院大学法学部教授。著書に『告発!政治とカネ 政党助成金20年、腐敗の深層』『内閣官房長官の裏金 機密費の扉をこじ開けた4183日の闘い』など(筆者撮影)

「桜を見る会前夜祭」は「安倍晋三後援会」という山口県下関市の政治団体が主催し、東京の高級ホテルで開催された政治的事業でした。安倍総理主催の「桜を見る会」の前夜に開催され、安倍事務所が「前夜祭」と「桜を見る会」をワンセットで後援会員らに案内したものです。2013年から2019年まで開催されていました。

ところが、「安倍晋三後援会」は、その会費収入やホテルへの支出を政治資金収支報告書に一切記載していなかったのです。政治資金規正法違反です。また、東京都内での高級ホテルで開いた夕食会(前夜祭)は1人5000円の会費だったとされていますが、これでは明らかに収入が不足しています。食事代や会場費は賄えないでしょう。

だからといって、仮に、不足分を政治資金で補填したとなると、その金額の分は自らの選挙区内の有権者への寄付になってしまいます。これは公職選挙法違反です。

当選9回の大物がなぜ便宜を図るようなことした?

――「桜を見る会」と「前夜祭」では、当時の安倍総理自身の「政治とカネ」問題に発展しました。しかし、安倍氏は当選9回の大物です。地盤も盤石。民主党が政権を奪取した2009年の衆院選・小選挙区でも圧勝でした。それなのに、なぜ、地元の有権者に便宜を図るようなことをしたのか。そこはどう考えますか。

1991年、自民党には約547万人もの党員がいました。しかし、安倍氏が総理に復帰した2012年末は73万人程度。激減です。

自民党が圧勝した2005年のいわゆる郵政総選挙では、自民党は比例代表で2588.8万票を獲得したのに、2009年の総選挙では1881万票まで減らし、野党に転落しました。2012年の総選挙ではさらに減らして1662.4万票です。それでも政権に復帰できたのは、棄権が増え、民主党が大きく得票を減らしたからでした。

つまり、自民党は支持を回復して与党に返り咲いたわけではないのです。そのことをわかっていたからこそ、安倍氏は党員数と得票数を回復したいと思って、「桜を見る会」が総理主催であることに乗じて自民党のために利用しようとしたのではないでしょうか。

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