そのようななか、1歳の園児が発熱した。看護師の佐藤さんは保護者がお迎えにくるまでの1時間、マスクをしていない園児を抱っこしながら看護していた。佐藤さんはワクチン接種を済ませていたものの、その子がコロナの陽性だったと知らされた時には、自身の感染の心配だけでなく、同居する高齢の親への感染の不安が募り、生きた心地がしなかったという。
次々に陽性者が増えて、保育園はクラスターと認定された。感染リスクの高いはずの保育園でPCR検査がすぐ受けられる態勢だったわけでもない。佐藤さんは、「政治や行政は保育士の感染リスクをどう考えているのか」という憤りが隠せない。コロナに感染して休んだ保育士に対して、園側は給与補償しようともしない。そうした状況に絶望し、佐藤さんは退職を決意したのだった。
乳幼児相手に感染予防対策は不可能
都内の認可保育園で働く木村由香さん(仮名、30代)も、感染のリスクをつねに感じながら働いている。木村さんは「感染予防? 乳幼児を相手にそんなこと、できるわけがないですよ」と、怪訝な顔をした。
5~6歳になる年長クラスの園児なら1日マスクをしていられる子もいるが、0~1歳児は、ほぼ不可能だ。赤ちゃんの抱っこは欠かせず、1~2歳の園児が保育士に抱きつくことも多い。園児がくしゃみをすれば飛沫をかぶる。泣いている子をあやしているうち鼻水が保育士の服につくことも日常茶飯事だ。
木村さんは「いつ陽性者が出てもおかしくない状態です。もし保育室の面積に余裕があって、保育士の人員を増やすことができるなら、クラスをもっとグループ分けして保育するなど工夫の余地があるのに」と複雑な表情を見せた。
認可保育園には面積基準や保育士の最低配置基準があるが、長年、改善が求められている。
面積基準は、0~満2歳児未満の場合で乳児室が園児1人当たり1.65㎡、ほふく室が同3.3㎡。満2歳児以上で保育室が1.98㎡などとなっている。ただ、保育園が面積基準ギリギリで作られることが多く、園庭がない保育園も増えていることから、室内で園児が密になりやすい。
保育士の最低配置基準は年齢ごとに決められており、0歳児が園児3人に保育士1人(「3対1」)、同様に1~2歳児が「6対1」、3歳児が「20対1」、4~5歳児が「30対1」という多さだ。保育士1人がみる子どもの数が多く、密は避けようにない。
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