三浦さんが子どもを預ける保育園では、「子どもが家にいては仕事にならない」と多くの保護者が反発したことから、保育園は在宅ワーク時の利用を拒まなくはなった。しかし、保護者の服装を逐一チェックするようになった。普段はスーツで通勤する三浦さんがラフな服装で子どもを登園させると、すかさず保育士から「今日は在宅ワークですか」と確認され、「通勤時間は差し引いた時刻にお迎えに来てください」と念を押されるようになったのだ。
そして、少しでもお迎えが遅れようものなら嫌味を言われる。三浦さんは「何も家で遊んでいるわけではない。私たち保護者からは、保育士がラクをしたいから預からないようにしか感じられないのです。感染リスクを考えれば当然、子どもを登園させたいとは思えません。けれど、生活のため仕事をする以上は、預けるしかありません」と複雑な心境だ。
在宅ワークだからこそ労働時間が増えることもある。日本生産性本部の「第6回働く人の意識調査」(2021年7月)の調査結果によれば、テレワークの実施率は2021年7月時点で20.4%、「自宅での勤務で効率が上がったか」の問いに対して、「効率は下がった」(13.4%)、「やや下がった」(36.3%)と約半数が効率の悪さを感じている。
また、同調査の「今後の自身の雇用に不安を感じるか」の問いに対して、「かなり不安を感じる」(14.9%)、「どちらかと言えば不安を感じる」(36.1%)と回答しており、半数が不安を感じており、保護者が置かれる環境の厳しさが見える。
他の保育園では、コロナ解雇された母親がやっとの思いで見つけた派遣の仕事に保育士が無理解だったことに園長が頭を抱えた。その母親は昼頃から夜にかけての仕事が多く、派遣先の都合に合わせて働けないと失職する心配があった。それでも保育士は「子どもを預ける時間がバラバラで困ります」「午前中は預けないでほしい」と言い、「シフト表を早く提出してほしい」と急かしていた。
園長は「転職してすぐは、保護者だって予定がどうなるかわからない。ましてやコロナで失業しやすいのだから、保護者を追い込むようなことを言ってはいけない」と注意するが、保育士不足のなかで辞められては困るため、それ以上は厳しく指導できない。同園長は、「保育士の売り手市場が続いたことで、『なるべく仕事をしたくない』とプロ意識に欠ける若手も増え、コロナでさらにそれが増した」と実感している。
現場の混沌で対立が生まれてしまう
このように、コロナ禍のなかの現場は渾沌とし、本来は協力しながら一緒に子どもをみるはずの保育士と保護者が対立してしまうケースも少なくない。
緊急事態宣言が明けても感染リスクがなくなるわけではない。今こそ、保育士と保護者の双方の働き方や置かれる状況について理解を深める必要がある。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら