5歳からの義務教育におわす文科省構想への懸念 海外の義務教育早期化と日本の決定的な違い

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5歳児に対する一律教育が議論される背景とは?(写真:pearlinheart/PIXTA)
5月25日に当時の萩生田光一・文部科学相が記者会見で「幼児教育スタートプラン」構想について触れた。「具体的には、ことばの力、情報を活用する力、探究心といった生活・学習基盤を全ての5歳児に保障する『幼保小の架け橋プログラム』」「5歳の1年間は、小学校に上がる前段階として、同じ学びをしていただくことがこれからの義務教育に必要じゃないか」とのこと。
記者会見当時、私は拙著『ルポ 森のようちえん』執筆のための取材を進めていた。現場の幼児教育関係者は一様に、文科相の発言に懸念を抱いていた。
7月8日には中央教育審議会(中教審)の初等中等教育分科会が開催され、そこで5歳児教育の共通プログラムの開発を始めることが決定された。同20日の中教審特別委員会では、行きすぎた早期教育にならないように求める意見も出たと、その日の朝日新聞が報じている。
報道では「5歳児教育プログラム」などと称され、小学校の前段階として、すべての5歳児に対して一律の教育が行われる可能性が示唆されている。
欧米先進国に比べると日本の義務教育開始時期が遅いことは、2020年の一斉休校にともなう「9月入学」の議論の際にも話題になった。しかし欧米の義務教育が、日本の小学校1年生と同じような内容の単純な前倒しかといえばそうではない。
私たちは、「5歳児教育プログラム」の構想をどう評価し、その議論をどう見守ればいいのか。教育学の大家である汐見稔幸さんに尋ねた。前後編でお届けする。

「同じ学び」をどう解釈するか

おおたとしまさ(以下、おおた):5月の記者会見のとき、汐見さんはまず何を感じましたか?

汐見稔幸(以下、汐見):萩生田さんの説明の仕方は、まあ、こう言っては失礼ですが、現場のこと、特に幼児教育のことをよくわかっていない場合の典型的な説明の仕方だなあと。小学校では1年生からタブレットを使った教育が始まっているんですよと。そういう変化の激しい時代に対する幼児教育関係者の問題意識はバラバラなんじゃないかという認識を前提にしているように聞こえましたよね。またそこで「同じ学び」という言葉がキーワードになっていました。この「同じ学び」っていうのをどう解釈するのかというところでは、今後、相当すったもんだの議論になるんじゃないかと私は思っています。

おおた:やはり。

汐見:萩生田さんの頭の中には、「何歳ではこれをやる」みたいなカリキュラム像があるのかもしれないのですが、それは「系統(一斉)カリキュラムの考え方です。でもそもそもカリキュラムとは、馬車の轍(わだち)を意味するラテン語から来ていて、その原意は1人ひとりの経歴、経験のことです。

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