5歳からの義務教育におわす文科省構想への懸念 海外の義務教育早期化と日本の決定的な違い

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おおた:そうなると、小1プロブレムだけじゃなく、不登校の問題とも関連しますね。

汐見:そういうことをよく知っている日本保育学会のメンバーが文科省の議論に参加しているので、最終的にはなんとか収まるところに収まるだろうとは思っているのですが、もう1つ萩生田さんの記者会見の言葉の中に、ちょっと気になる表現もあったんですよ。義務教育の早期化をにおわせるような。

おおた:「5歳の1年間は、小学校に上がる前段階として、同じ学びをしていただくことがこれからの義務教育に必要」という部分ですよね。

汐見:そうそう。「5歳からやっていただくことがこれからの義務教育」っていうふうになっちゃってるわけですよ。義務教育の早期化ですよね。実はこれ、1971年(昭和46年)からの国の懸案なんです。戦後の中教審の活動の中で最もインパクトがあった「四六答申」に書かれていたんです。

「四六答申」が義務教育早期化を訴えたワケ

おおた:そうでしたか。

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汐見:戦後の教育改革で日本の幼児教育の祖である倉橋惣三さんなんかは「義務教育は3歳からやるべきだ」と言っていました。でもそれは、裕福な家庭はいいけれど、そうじゃない貧しい家庭の子どもたちは放ったらかされたり、働かされたりして、それが教育の差になっちゃうから、3歳からの義務教育にしてあげたほうがいいという善意で。

おおた:ノーベル経済学賞のヘックマン博士が訴えたことと同じですね。

汐見:でも、四六答申は趣旨がちょっと違うんです。高度経済成長が実を結んだということで、さらに優秀な子を育てるために、学校教育を4〜5歳から始めたらどうかという意味で。当時、直後にオイルショックがやってきて、義務教育の早期化の話はどこかに吹っ飛んだのですけど、四六答申のあと、1970年代後半から学校は相当荒れましたよね。

おおた:ドラマの「金八先生」に描かれている状況ですね。

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