企業のCSR活動とジョイント:有機農家の挑戦を追う
そんな農業カメラマンとして活動し始めた公文さんに注目したのが、米系タバコ会社「サンタフェ ナチュラルタバコ ジャパン」。無添加たばこを取り扱う業態柄、有機農業への思い入れが強く、東日本大震災後のCSR活動では農地を失った有機農家を支援する「Share the Love」プロジェクトを開始、売り上げの一部を東北の有機農家への支援金に充ててきた。現在は被災地以外にも対象を広げ、自社の特設サイトで有機農業に挑戦する新規就農者やパイオニアらを紹介。リアルな姿で魅力的に撮れる写真家を探していた。テーマなど大枠の方向性以外は、公文さんの感性に任せている。
農業に詳しくない人に少し注釈すると、有機農業では化学合成された農薬や肥料に頼らず、環境への負荷をできるだけ減らして農作物を生産する。健康や環境への志向の高い消費者から支持され、有機農家の数も2006年から5年間で1.3倍の約1万2000件(農水省調べ)に増えたが、農薬を使わなければ害虫や病気のリスクがあって栽培は容易ではない。たとえばリンゴは長く無農薬栽培が不可能とされたが、実現した青森の農家夫婦の苦闘は昨年6月、阿部サダヲ、菅野美穂主演で「奇跡のリンゴ」として映画化された。つまり、品目によってはそれだけ大変な苦労を強いられるのだ。
変わりゆく農業の風景を撮り続ける
「Share the Love」で公文さんは、日本一の美味しい米として表彰された有機農家らを取材。中には長年のノウハウを惜しげもなく若い農家に教える人もいて「こんなに苦労して手に入れた技術をなんで教えられるのか?」と人間性の大きさに圧倒された。彼らのオーラに負けまいと、35ミリレンズひとつで撮る制約を自らに課し、時に地面に這いつくばって泥まみれになりながら、その生き様を表現する一枚を追求。不自然な演出もしない。「果物や野菜を持ってニッコリしてもらうのでは本質が伝わらないから」。まさに真剣勝負を繰り広げている。
TPPや農協改革、企業参入など変革の機運が高まる農業界。「大規模化が進めば風景は変わってしまう。これまでの農村風景も撮っておきたいし、有機や次世代の農業にも光を当てたい」。端境期を見届けられるのは全国の農地を渡り歩いてきた「自分だからできること」。公文さんは数年以内に集大成として「農業」をテーマにした写真展を開くつもりだ。
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