農家の生き様をネットで伝える男たち 社会・消費者との新しい関係性構築

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「水俣」に学んだ3つの心構え

藤田さんたちが先例として注目したのが熊本県の水俣病だ。1950年代、工場の廃液からの食物連鎖で引き起こされた公害に地元の人々は差別や中傷にも苦しめられたが、行政・市民が一体となりゴミの高度分別や独自の環境ISOなどに取り組んだ結果、半世紀を経て国の環境モデル都市に選ばれるまでに生まれ変わった。「当時はマスメディアしかない時代。もしネットがあればもっと早く物事が進んだのではないか」と思えるほどの再生に感銘を受けた。仲間の農家と震災直後から研究し、水俣市の取り組みを進めた吉本哲郎氏の講演から3つの心構えを学んだ。それは「諦めろ、覚悟しろ、そして、ホンモノを作れ」。現実に向き合い、誰もが認める農産物を作る意義を再確認した。

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倉庫のトラクターの前で。「トラクターの写真をネットにアップすると意外に好評なんですよ」

実際、藤田さんたちは常に前向きで本質的に問題をとらえようとしている。「原発事故がたまたまあって問題が早く表面化した。むしろクリエイティブに問題を解決したほうがいい」。知恵が生まれ、行動し、危機の解決につながるという考えだ。

福島はもともと震災前から耕作放棄地や高齢化の問題が全国で最も深刻だった。だからこそ仲間の若手農家たちと新しいことをできないか模索していた。自身は大学卒業後、実家を継ぐ前にIT企業での勤務や職業訓練校、バーテンダー養成校への入学などで視野を広げ、就農後は野菜ソムリエの資格を取得。公民館の講座を通じて生活者の声を聞き、芸術家との異色コラボで「農とアート」の企画販売を行うなど、現在の情報発信への姿勢は「実は震災前と変わっていない」という。

「今回のことでわかったのは、幸せは状況ではなく選択だということ。どんな状況下でも自分が幸せになるために前を向いて選択することを示す。(その結果)大変だった福島が、こんなにすばらしくなった、と言われるように私は農業の分野で頑張りたい」。農業だけでなく故郷の再生も目指す藤田さんたちのイノベーションが成果を出せば、課題先進国ニッポンが世界に誇る事例になることは間違いない。

新田 哲史 広報コンサルタント/コラムニスト

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にったてつじ

1975年生まれ。読売新聞記者(社会部、運動部等)、PR会社勤務を経て2013年独立。企業広報のアドバイス業務の傍ら、ブロガーとして「アゴラ」「ハフィントンポスト」にて評論活動を行う。2013年の参院選、14年の都知事選ではネット選挙案件を担当。東洋経済オンラインではネット選挙の記事を寄稿し、野球イノベーションの連載を企画した。

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