岸田内閣と自民党が仕掛ける「デリート政治」の罠 国民の目に映る場所から「負の遺産」を消す手法
日本政治を研究する欧米の政治学者の間では、自民党がなぜこれほどの長い期間、ほぼ安定的に政権を維持しているのかということがかねて大きな疑問となっている。
日本以外の主要先進国では例外なく、異なる国家観や政策を掲げる政党が一定期間で政権交代を繰り返し、政治に緊張感を与えている。ところが日本では自民党が1955年の結党から今日に至るまで、2度の野党転落期を除いて権力の座を維持し続けている。野党だった期間もわずか約4年にすぎない。周期的な政党間の政権交代という民主主義国に定着しているメカニズムはほとんど機能していないのだ。
数々の疑獄事件を「デリート」してきた党内政権交代
もちろんこの間、自民党がつねに順風満帆だったわけではない。岸信介首相による安保改定、田中角栄首相の金脈問題やロッキード事件、竹下登首相ら自民党幹部が軒並み関与したリクルート事件、失言を繰り返した森喜朗首相という具合に、強引な政治手法や首相ら党幹部の疑獄などで支持率が下落し野党転落の危機に直面したこともある。ところが自民党はその都度、党内政権交代という手段で国民の支持を取り戻すという復元力を見せてきた。
今回の菅首相から岸田首相への交代も同じパターンを意図したものである。菅政権末期、内閣支持率と政党支持率の低下を前に、自民党内には「このまま総選挙に突入すれば自民党は60~70議席減を避けられない」という危機感に溢れていた。
支持率低下の原因は、コロナ対策の不十分さや記者会見などでの菅首相の表現力の乏しさだけではない。コロナ感染拡大の真っ最中での東京五輪開催、さらには「森友・加計問題」「公文書改ざん問題」「桜を見る会問題」「河井参院議員の買収事件」など前任の安倍首相が残した負の遺産に菅首相や自民党がまったく手を付けなかったことも大きい。
こうした「負の遺産」を一気に清算してしまうのが自民党の得意とする党内政権交代という手法である。支持率の下がった首相が辞任して後継にまったくイメージの異なる首相を担ぎ上げることで、それまでの問題をすべて国民の視野から消してしまう。パソコン用語を使えば、画面上のデータをすべて消去してしまう「デリート」と呼んでもいいだろう。もちろん負の遺産は一時的に画面から消えて国民に見えなくなっただけで、どこかに保存されており、これで自民党の本質が変わったわけではない。
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