「運賃値下げ検討」北総が抱える線路使用料の実態 京成の支払額「安すぎ」との指摘は正しいのか

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この主張に合理性はあるのか。重要なのは、北総と京成の関係は相互直通(例えば京成線と都営浅草線の関係)ではなく、京成が北総の線路を利用して列車を運行する第二種鉄道事業者である点だ。つまり京成高砂―印旛日本医大間は北総線でもあり、京成線でもあるということだ。

相互直通であれば北総線内を走るすべての列車の運賃収入は北総に入るが、第二種鉄道事業者の場合は同じ線路にそれぞれの事業者が列車を走らせ、それぞれの事業者が運賃収入を得る形になる。 

だが、同じ区間を走る2つの鉄道が別々の運賃体系を取るためにはホームと改札口を完全に分ける必要がある。例えばJR西日本と南海電鉄が共用する関西空港駅や、JR東日本と京成が共用する成田空港駅など、ホームと改札を分離して路線ごとに運賃収受をする事例もあるが、既存の路線を改築するのは不可能なので、成田スカイアクセス線と北総線は京成高砂―印旛日本医大間で同じ運賃体系を採用することになった(その結果、京成高砂―印旛日本医大間32.3kmが837円なのに対し、京成高砂―成田空港間51.4kmが995円というバランスの悪い運賃カーブとなっているという批判もあるが、この点については今回は触れない)。

両社が運賃体系を共有することで生じるもう1つの問題は運賃収入の配分だ。北総と京成が共有する京成高砂―印旛日本医大間は、乗客がどちらの路線(列車)を利用したのか判別することができない。そこで、北総線区間を通過利用する場合(京成上野―成田空港間など)は、全区間を京成の列車に乗り通すものとみなしてすべて京成の収入とし、北総線区間で京成のアクセス特急が停車しない駅間(矢切―西白井間など)を利用する場合は北総の収入とすることとした。

また、北総線区間でアクセス特急が停車しない駅と成田スカイアクセス線の成田湯川―成田空港間の利用は、北総と京成の乗車区間の運賃をそれぞれの収入とし、両社の列車が同じように利用できる北総線内の京成停車駅間(東松戸―千葉ニュータウン中央間など)の利用は、利用機会の観点から両社の運行本数割合で収入を配分することとした。

相互直通にしなかった理由は

このような複雑な仕組みを構築してまで相互直通方式を取らなかった理由について、京成は2010年1月26日に開かれた公聴会で、高速化のための追い抜き設備新設や保安装置改良などには多額のコストがかかり、相互直通方式だと北総がこれらに加えて車両増備や車庫拡充などのリスクを自ら負うことになる点を挙げている。そのうえで、「北総鉄道は、巨額の累積損失を抱え債務超過状態にあることから、これらを負担した場合、経営リスクが極めて高くなると判断」したとする。

北総は、成田スカイアクセス線の開業による運行本数の増加に伴い必要となる耐震補強工事について費用の半額を負担した以外、新規の設備投資に必要なコストを負担せず、これらは成田空港や沿線自治体、京成などが出資する第3セクター、成田高速鉄道アクセスが費用を負担した。このため、京成はスカイアクセス線開業以前の設備に対して線路使用料を支払うという仕組みだ。

【2021年10月15日19時00分 追記】記事初出時、費用負担についての記述に誤りがあったため上記のように修正しました。

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