「運賃値下げ検討」北総が抱える線路使用料の実態 京成の支払額「安すぎ」との指摘は正しいのか

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相互直通でなく、第一種鉄道事業者の設備を用いて第二種鉄道事業者が列車を運行している事例としては、東京メトロ南北線(都営地下鉄三田線)の目黒―白金高輪間がある。

同区間は東京メトロが第一種鉄道事業者、東京都交通局が第二種鉄道事業者となっている。『南北線建設史』によれば、目黒―白金高輪間の線路使用料は「対象施設の建設に要した費用の2分の1を使用期間内(引用者注:30年間)で回収し、当該施設の所有、保守管理及び更新、改良等に要する費用のうち、都の対象施設使用割合に応じた額を賄うものとする」としている。

また運賃収入についても、南北線赤羽岩淵―白金高輪間と目黒―白金高輪間を連続して乗車する場合は東京メトロ、西高島平―白金高輪間と目黒―白金高輪を連続して乗車する場合は東京都交通局の収入とし、目黒―白金高輪間の相互発着や、目黒―白金高輪間から東急目黒線を利用する旅客については、当該区間の列車運行本数比率によりメトロと都で分配するとされている。

こうした事例と照らし合わせると、京成が北総に支払う線路使用料は不当とまでは言えないだろう。結局、現在の仕組みの元では、北総が得られる線路使用料を増やすことは困難と言わざるをえない。

「情報不足」が招く利用者の不信

本稿執筆にあたっては北総に取材を申し込んだが、鉄道・運輸機構に支払う償還額や線路使用料など、ほとんどの項目について「ご質問の内容には弊社相手先および関係先に係る事項も多々あり、お答えすることが出来ない設問が含まれて」いるとして回答を得られなかった。

だが、これまで記してきたとおり、公開情報や情報公開請求などで得られる情報で、その実態をおおよそ把握することができた。その中には北総にとって決して不利ではない情報もあった。

結局この問題について利用者が不信を抱く原因は、京成と北総の情報発信が不十分なことにある。今回、値下げ方針が示されたことで、劇的な値下げを期待する利用者も少なくないだろうが、これまで検証してきたように、過剰な期待は空振りに終わる可能性が高い。

悲願の値下げがかえって「失望」を招くことすら考えられるが、さらなる値下げの可能性がないわけではない。累積損失解消と値下げがゴールではないし、利用者からそう思われるのも本意ではないはずだ。将来的な経営のビジョンを示すためにも、値下げを機に経営状況を含む抜本的な情報開示を求めたい。

枝久保 達也 鉄道ジャーナリスト

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えだくぼ たつや / Tatsuya Edakubo

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)勤務を経て2017年に独立。鉄道ジャーナリスト、東京の都市交通史の研究などで活動する。

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