19年ぶりに「外貨交換券」を発行した北朝鮮の実状 当の北朝鮮では発行が知られておらず「韓国の謀略」説も
ただ、2016年の核実験やミサイル発射試験により国連やアメリカを中心とする経済制裁が強化された。鉱物資源や服飾の委託加工といった貴重な外貨獲得源である輸出が大きく制限を受け、貿易など対外経済が目に見えて悪化した。さらに2020年1月には新型コロナウイルス感染症の流入を防ぐために中朝国境を閉鎖してしまい、中朝間の貿易額も急減。これにより物資・食糧不足などのさらなる経済悪化がこれまで指摘されてきた。
2020年10月には北朝鮮のロシア大使館が、自身のソーシャルネットワークサービスで「北朝鮮当局が平壌の小売店でドルやプリペイドカードの支払いを受け付けず、ウォンで支払うように要求されている」と投稿したことがあり、北朝鮮の外貨事情の悪化がささやかれてもいた。
そのような状況の中で、今回「トンピョ」の存在が浮上した。外貨不足と北朝鮮経済の悪化が深刻化しているとの見方が高まっている。
北朝鮮の誰も知らない「トンピョ」
ところが、北朝鮮側からはトンピョの発行を否定する声が相次いだ。中朝国境で北朝鮮とビジネスを行う中国人は「北朝鮮の取引先に聞いても、そんなトンピョのようなものはない、見たこともないと言っている」と否定する。平壌市に住む外国人も「知らないし、目にしたことがない」と返ってきた。トンピョは朝鮮中央銀行の発行となっているが、そこの関係者に聞いても「それは何のことを言っているのだ」という声もあった。
中には、「(2002年に)一度廃止したものを復活させる理由がない」「ウォンに替えるなら外貨と直接交換すればいい。なぜそんな面倒くさいものを発行するのか」といった回答や、「韓国側のいたずら、謀略だ」と断言する人もいるほどだ。またトンピョを使わずとも、外貨で普通に取引や物品購入ができているとの証言も得られた。
トンピョは発行されたものの、普及はこれから、ということかもしれない。とはいえ、「トンピョ再発行」の確証が得られない中、うわさに信憑性を持たせているのは、金正恩政権が猛烈な勢いで経済管理を強めているからだ。
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