映画「護られなかった者たちへ」に込められた意図 瀬々敬久監督が語る「加害者視点」で描く理由

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――原作では行政側は「悪人」という描かれ方でしたが、今回はそうではありません。

今回、劇中で起こった殺人は、誰かの「圧倒的な悪」により引き起こされたのではなく、制度の矛盾が起こした「悲劇」として描きたかったんです。

主人公を追う捜査第一課の刑事・笘篠誠一郎を演じる阿部寛 ©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

原作では行政側は「悪人」ですが、いろいろ取材してみるとやはり生活保護の申請に対して審査をして許可を出すほうにも「理」がある。当然、不正受給はあってはならないことだからです。

それぞれに問題があって矛盾がある中で悲劇が起きてしまった。「復讐の殺人」というよりは「悲劇」であって、それが起こってしまったのはシステムに問題があるのではないかという問題提起ですね。

そういう構成にしたのは、やはり現地で取材をして実際に生活保護申請に携わっている方々に話を聞いたことが大きかったです。

一方、劇中で起こる殺人は言わば、理不尽に対する抗議です。

震災も誰も悪いことはしていないのにやはり起こってしまう。そのことを現実社会で起きている理不尽と対比しようと思いました。震災も生活保護を受けざるをえない状況、また受けたくても受けられない状況も理不尽である。怒りの持って行き場がわからないと。

いまだに残る傷跡

――今回の撮影で印象に残っているシーンはありますか。

石巻や気仙沼、塩釜で撮影地を探していたのですが、昨年の3月11日、東日本大震災が実際に起きた時間に、石巻の防潮堤の近くにいました。

地震が起きた14時46分頃になると、人が自然と集まって来て、一斉に防潮堤に上がって普段は見えなくなってしまった海に向かって手を合わせていました。震災は過去の出来事になったわけではないのだと。今はきれいにできあがっていますが、防潮堤の隣にある石巻南浜津波復興祈念公園はまだ工事中だったんです。

そのときに現地の方々に「復興は進んでいない。それに加えて、若い人たちはみんな県外に出ていなくなってしまった」と聞きました。震災が東北の地に大きな打撃を与えたのだということがよくわかりました。

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