映画「護られなかった者たちへ」に込められた意図 瀬々敬久監督が語る「加害者視点」で描く理由

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かつては、新聞投稿などの手段を用いていたのかもしれませんが、SNSでの情報発信に時代を感じます。誰もが情報発信できる時代に、新聞、テレビなどのメディアの権威はなくなっています。#MeTooなどがその例だと思いますが、SNSで問題提起をすることによって「自分も自分も」となり、Tweetが増えてメッセージが広がります。

それは「波状攻撃」のように感じます。メッセージがメディアから一般市民へと上から下に流されるのではなく、アメーバ状に届いていく。

「保育園落ちた日本死ね」のように、個人の発したメッセージが行政を動かすこともありました。SNSにはさまざまな垣根を越える力があります。劇中の発信者は今まであったメディアや行政の垣根を越えようとして、SNSに投稿したのかもしれません。

生活保護行政=悪なのか

――原作小説の映画化にあたって、現地で取材をしたと聞きましたが、印象に残っていることはありますか。

現地の福祉関係者の方々に実情を聞きました。その中で印象に残ったのは、生活保護は「申請第一主義」を採っているということです。つまり、希望者に申請されたら審査の手続に入らざるをえません。

なので、行政側として不正受給を防ぐためには水際作戦、つまり「申請させない」ということが必要です。また、申請後に本来であれば受給をすることが適当でない場合が発覚したときには本人に辞退届を書いてもらうしかないとも聞きました。

主人公で容疑者の利根泰久を佐藤健が演じる ©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

――劇中の女性は、連絡を取っていない娘に知られることを嫌がって申請には消極的でした。

生活保護を申請すると、その親族は「あなたの両親(兄弟姉妹)のAさんが、B市役所に生活保護の申請に来ました」といった通知を受け取ります。その後「Aさんに仕送りなどの援助はできませんか」という書面を受け取ることになるのですが、そうした「扶養照会」(編集部注:2021年3月末以降、生活保護申請者が扶養照会を親族にしないよう求める申出書を提出すれば、福祉事務所は事情を考慮して扶養照会をせずに済む運用に変更)を嫌がる方もいると聞きました。

菅内閣発足時に「自助・公助・共助」というスローガンが発表され、話題になりましたが、福祉でもその言葉が使われています。劇中でも「福祉事務所が助けるよりも、周りの人で助けるほうがいい」という言葉がありますが、経済的に困窮している人を「誰が扶養するのか」というのは非常に難しい問題です。

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