イギリスまさかの「ガソリン不足で行列」のなぜ コロナの出口でブレグジットの亡霊に襲われた
欧州国際政治経済研究所の通商政策専門家デビッド・ヘニグ氏は「他国から働き手を雇い入れる能力が(イギリスの)経済モデルの前提になっているのに、労働市場はいきなり、かつての8分の1に縮小した。モデルを適応させる時間がなく、ブレグジットの影響が出ている」と言う。
ジョンソン氏は、ガソリンの供給障害はクリスマスまで続く可能性があると警告しているものの、28日を境に状況は改善に向かい始めた。神経質になっていた消費者がひとまず燃料を満タンにしたことで、通常の給油パターンが復活する展開を政府は期待している。
2020年にEUの単一市場から離脱して以降、イギリスが貿易上の混乱に直面したのは今回が初めてではない。イギリスの漁業関係者は、新たな衛生ルールのせいでEUの水産物市場を丸ごと失った。イギリスの消費者は、イタリアから出荷されるグルメコーヒーに高額の関税がかけられて衝撃を受けてもいる。
コロナが後退して、毒々しいあの問題が…
だが今回の混乱は、パンデミックで余儀なくされた1年半の規制が解かれ、生活がかつての平常をそれなりに取り戻した後では初めてのものとなる。コロナ禍の影響に覆い隠されることなく、ブレグジット後に表面化した初めての危機となったわけだ。
それでも、ブレグジットが一般の話題に上ることは驚くほど少ない。1つには、パンデミックの余波がまだ続いているからだ。さらに、ドイツやアメリカといった他国もサプライチェーン(供給網)の混乱や労働力不足、石油・ガス価格の高騰などに手を焼いおり、こうしたこともブレグジットに話題が向かわない1つの要因になっている。
だが、そこにはEU離脱をめぐる議論がイギリスで極めて厄介な存在になったという事情も絡んでいる。4年半にわたる言い争いの結果、ブレグジットの最も強硬な反対派でさえ、2016年の国民投票について話題を蒸し返そうという意欲を失っている。一方、ブレグジットを支持した離脱派は、何か悪いニュースが浮上するたびに、決まってブレグジット以外の何かを悪者にする。
「ブレグジットの支持者は、これからもEU離脱は正しかったと信じ続けるだろう。ブレグジットそのものは正しかったが不誠実な政治家のせいで台なしになった、というスタンスだ」とロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのトニー・トラバース教授(政治学)は語る。「この人たちは運がいい。何しろ、問題のすべてをパンデミックのせいにできるのだから」。