イギリスまさかの「ガソリン不足で行列」のなぜ コロナの出口でブレグジットの亡霊に襲われた
政府寄りの新聞はブレグジットが人手不足の一因になったことを認めているが、EU離脱による構造的な障害よりは政府の危機対応を重視する論調が強い。ロンドンのタイムズ紙は28日の社説で、ジョンソン政権の信用は今回の危機で粉々になりかねないと警告した。
イギリス政治には、ジョンソン氏にとって気掛かりな前例がある。トニー・ブレア首相の労働党政権は2000年、世論調査で圧倒的な支持率を保っていたが、トラック運転手が燃料価格の高騰に抗議して製油所を包囲したことから、今回と似たようなガソリン供給危機が勃発。保守党に対する同政権のリードはわずか2週間で蒸発した。
ジョンソン氏は28日、国民の怒りをなだめようとテレビのインタビューに応じ、人手不足は世界的な問題だと語った。しかし、ブレグジットについては一言も触れていない。
労働党が政権を攻めきれないワケ
イギリスの世論調査では今年、コロナワクチンの接種が成功裏に進んだことから、ブレグジットを支持する国民がわずかに増えた。イギリス政府がワクチンの確保に成功し、承認手続きを迅速に進められたのは、EUの官僚主義から独立していたおかげ、とする見方があった。
EU離脱派の政治家も、就労ビザに関するジョンソン氏の方針転換を正当化しようと同様の議論を持ち出した。当初、政府はビザの発給に難色を示していたが、今ではブレグジットのおかげでイギリスの望む条件で外国人を受け入れる能力が高まった、と離脱派の政治家は主張した。
野党の労働党にとって、今回の燃料危機は政府の失態を世の中に見せつける絶好のチャンスとなるはずだ。ところが、一部の例外を別にすれば、党の指導部は旗幟を鮮明にできていない。かつての混乱を思い出させる光景だ。労働党はブレグジットをめぐって内部の溝が深まり、政権と対決する力をそがれていた時期がある。
「労働党が政権の追及に及び腰になっているのには驚きを禁じえない」とキングス・カレッジ・ロンドンのアナンド・メノン教授(ヨーロッパ政治)は言う。「ブレグジットという言葉を使わなくても、ブレグジットに言及することはできる。この燃料危機は、保守党のばかげた貿易交渉のせいで起きたと言えばよいのだ」。
(執筆:Mark Landler記者)
(C)2021 The New York Times News Services
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