(第21回)自動車輸出を軸とした95年頃からの日本経済

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ガソリン車では垂直統合生産が有利

日本の自動車産業が強かったいま一つの理由は、自動車が持つ技術的特性にある。自動車の生産においては、部品間の微妙な「擦り合わせ」が重要になる。だから、垂直統合的な生産が有利になるのである。

これは、部品のモジュール化が進展し、生産が水平分業に転化したエレクトロニクスと対照的だ。PC(パソコン)では、水平分業化が進んだ結果、それまで日本メーカーが持っていた優位性が失われた。たとえば、80年代にはNECの9801が「国民機」と言われるほど日本市場を独占していたが、ウィンドウズ95の頃から、状況が一変した。

しかし、こうした変化は自動車には生じなかった。それは、ガソリン車はメカニカルに複雑なものであるため、部品のモジュール化が進まないからである。とりわけ、変速機は非常に複雑な機械だ。ハイブリッド車は、2系統の動力を使うため、ガソリン車よりもさらに複雑である(自動車でもエレクトロニクス製品が多用されるようになった。しかし、これは、生産方式の水平分業化とは無関係なことである)。

そのため、自社内または、人的・資本的に密接に結びついている系列企業との共同作業になる。アメリカの自動車会社も、典型的な垂直統合的生産を行っていた。たとえば、フォード社は、タイヤのゴムも自社で作り、そのためのゴム園まで持っていたそうである。アメリカの自動車会社が家父長的な経営を行っていたと述べたが、それは自動車の生産技術がもたらした必然の結果だったと考えることができる。

市場を通じる共同作業ではなく、組織内での共同作業が重要だった。そして、これこそが、日本が強い分野なのである。

【関連情報へのリンク】
日本自動車工業会輸出データ
経済産業省鉱工業生産指数



野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。


(週刊東洋経済2010年7月3日号 写真:今井康一)
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