『孤高のメス』--今の日本経済に必要な“真摯さ”を描く《宿輪純一のシネマ経済学》
日本のあしき組織に関する代表的な展開だ。患者の家族の気持ちがリアルで痛い。堤真一以下の出演陣の抑えた演技もすばらしい。
この映画のテーマは“真摯さ”である。筆者は経営学者、ピーター・ドラッカーのファンだが、彼はマネジャーについて「学ぶことのできない資質、習得することができず、もともと持っていなければならない資質がある。他から得ることができず、どうしても自ら身につけていなければならない資質がある。才能ではなく真摯さである」と述べる。
原書では“integrity”という単語が使われていた。このくだりは『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 』でも触れられている。
真摯とは、まじめで熱心、それ以上に、目標に対して直に向き合い、最も大事なことはその裏に“誠実な人間性”があることだと考える。これが今の日本の経済も含めた政策に必要不可欠なことだと考える。特に改革を推進しなければならないときには、なおさらである。
人間が引き付けられる(好きになる)対象は“人間”であることが多い。どんなに立派な経済政策でも、首相や大臣が引き付けられる人物でなければ、薬と一緒で経済政策の効き目は薄くなる。その人を引き付けるのが、本作品やドラッカーが述べているが“真摯さ”であると信じる。
政策でも、経営でも、大きな部分は人、それも性格、さらにいえば誠実な人間性、つまりは“真摯さ”である。そういった意味でも、この作品は、たいへんに勉強になる。