『孤高のメス』--今の日本経済に必要な“真摯さ”を描く《宿輪純一のシネマ経済学》

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 さらに個人のレベルでいうと、現在、最も欠けつつあるのが、この“真摯さ”ではないだろうか。目立たず真剣にやらないで、クレームをつけて得しようという風潮が出てきている。特に最近、事件が凶悪化しており、社会全体も、モンスター化しつつあるような気がする。

本作では、事なかれ主義かつ保身主義の体制派は、最後にはたたかれる。そういった意味でも、痛快な時代劇的な展開の、気持ちをスっとさせる精神安定剤的効果も捨てがたい。

最近、特に邦画で身近な殺人や暴力を描く映画が増えている気がする。まねをする人が出てくることも多く、危険ではないか。筆者は映画のファンとして殺人や暴力を扱う映画よりも、このような生き方に迫る映画が数多く出てくることを切に願う。


写真:(C)2010「孤高のメス」製作委員会 

しゅくわ・じゅんいち
映画評論家・エコノミスト・早稲田大学非常勤講師。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングスなどに勤務。非常勤講師として、東京大学大学院、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学等で教鞭を執る。ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。財務省・経産省・外務省等研究会委員。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA

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