「若者たちは皆、リアルに飢えている。高学歴だが、知識を何に使ってよいかわからない。感じることが苦手で、自分の好きなこともわからないという。これは現代社会で、農村と都市、生産者と消費者が分断されてしまっていることと深い関係があります。教科書とスマホの世界にどっぷり漬かって頭ばかり使い、身体性が欠落しているから、“生きものの人間”としての自分を自覚しにくい。大規模流通システムで成り立つ消費社会では、自分が何に生かされているのかの関わりも見えないから、“生の実感”にも乏しいのです」(高橋氏)
そういう彼らだからこそ、食材生産の現場に身を置くことに大きな意味があるという。食材の生産は、ときに生死にも関わる厳しい仕事だ。また食とは、他の生物の命を奪うことにより成り立つ。
「食べものの裏側の生産現場に飛び込んだ若者たちから『自分が何に生かされているのかを肌身に感じ、生きる実感が湧いた』という声を何度も聞きました。食べものの生みの親である田んぼや畑、海などの自然、育ての親である農家や漁師に生かされてきた自分に気づくのです。そして、日頃、口に入れてきた食べものが元々は動植物の命だったという当たり前の事実を思い出す。命のやり取りの現場に身を置くことで、ネットのバーチャルな世界では感じることができない圧倒的リアリティーを取り戻すことができるわけです」(高橋氏)
漁業の生産現場に合計7人の学生が参加
今回の青空留学プロジェクト第一弾では、10月頃から秋田県、山口県、熊本県の漁業の生産現場に合計7人の学生が参加し、実際に船に乗って漁業を体験しながら、課題解決の道を探る。
その一人が、慶應義塾大学法学部政治学科1年生の高木安奈さん。「日本を変えたい」という熱い思いを抱いて勉強中だ。地域創生に興味があり、地元であるいわき市の団体でも活動している。地域と都市をつなぐという高橋氏の理念に共感し、このたびのプロジェクトに応募した。
「まだ事前研修を受けているところですが、個性的な同世代の仲間と交流したり、フィールドワークのやり方を学ぶことはとても楽しい。コントロールのきかない自然とぶつかって、実際やれるのか、不安はもちろんありますが、いっしょに立ち向かっていくことで絆が生まれるのではという期待もあります。また、本を呼んだりしてインプットしてきた知識が正しいのかどうか、現場で確かめることができるのが楽しみです」(高木さん)
一方で、共同で推進する日本航空の松崎氏も、長年抱いてきた思いを今回のプロジェクトに込めている。
「初めて聞いた高橋さんの講演で、『日本を変えて行くのはスマホではない、自ら足を使って、新たな価値を生みだしていかないと日本は死にます』という話があった。入社当時から自分がぼんやり考えていたことを言葉にしてもらったようで、胸に刺さったんです」(松崎氏)
同氏が入社して間もない2010年1月、日本航空は巨大な負債を抱え破綻。やさぐれたように仕事をしていたある日、自社の人材力について考える機会があった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら