アフガニスタンがこうしたテロリストや分離独立運動の温床となるのが、中国にとって最大の懸念である。中国は分離独立運動に対して過剰とも思えるほどの懸念を抱き、国内ではウイグル族やカザフ族に対する抑圧を強化している。アフガンが不安定化し、テロリストの活動が活発化することは、中国の恐怖を増大させるだろう。こうした意味で、アフガニスタンの安定は中国の国益につながる重要な問題である。
またアフガニスタンの国内が安定することで、その鉱物資源などの資源採掘や、一帯一路協力などの経済的協力が可能になるかもしれない。しばしば中国は鉱物資源を狙ってアフガン進出を強化するという予測がみられるが、事はそれほど単純ではない。
中国はアフガンにおける銅山採掘の契約を締結するなど、これまでもある程度の経済進出を試みてきたものの、安全への懸念やインフラの不備などから、プロジェクトはほとんど進んでこなかった。よって、中国にとってアフガンは、経済的利益は潜在的にあるものの、国内の安定なくして、それを得ることはできない、というのが実情である。
中国外交の試金石
アフガニスタンの安定に中国がどのように関与していくかが、中国がどのようにリーダーシップを発揮し、自国中心の秩序をどの程度積極的に構築していくかを図る試金石になる。中国は従来、リーダーシップを発揮して秩序を担うことには消極的だった。習近平政権までに、より積極的に国際秩序を主導することをうたうようになったが、あくまで理念的レベルにとどまっており、実際にリーダーシップを発揮することは少なかった。
中国は従来、国際秩序を支える原則として、国連憲章や平和五原則の主権平等、内政不干渉が重要との立場を取っており、これを外交の原則として掲げてきた。欧米が民主や人権をかざして他国の内政に介入することに中国は批判的立場を取り続け、中国は相手国の政治体制がどのように抑圧的な体制であろうとも、プラグマティックに外交を行うことができるとアピールしてきた。
アメリカ軍撤退とそれに続くカブール陥落の劇的な展開は、中国にはアメリカの失敗と衰退を象徴しているように映っているだろう。またアメリカの掲げてきた介入による民主主義国家建設は失敗し、人権を信奉するアメリカが多くのアフガニスタン住民を見捨てて逃げざるをえなかったことは、その大義の失敗を示していると中国は捉えている。その意味では、タリバンの勝利は中国にとって喜ぶべき展開なのかもしれない。
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