2大旅客機、ボーイングとエアバスの意外な違い パイロット視点で見たそれぞれの設計思想

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ボーイングとエアバスのコントロール・パネルはパイロットの視点で見ると大きな違いがある(写真:Aeronautpix/iStock)
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旅行や出張でジェット旅客機に乗客として乗ったことがある人は多いでしょう。そのとき、多くの場合、2大メーカーのボーイングかエアバスの機体に乗ることになります。この2大メーカーの旅客機は、自分がお客さんとして乗る分には大きな違いを感じないかもしれませんが、パイロットの視点で見ると設計思想が大きく異なります。
それは万一、エンジン火災が起きた際の対応からも見て取れます。『ジェット旅客機操縦完全マニュアル』を上梓した元航空機関士の中村寛治さんに説明してもらいます。

エンジン火災時、ボーイングとエアバスで何が違うか

もし、ジェット旅客機のエンジンで火災が発生したら、どうなるでしょうか。クルーは全員で火災が発生したエンジンを確認し、

・エンジンを最小出力にする
・燃料を遮断してエンジンを停止させる
・消火器の作動準備をする

といった操作を実施します。これらの操作によりエンジン火災の原因となる、燃料、油圧装置作動液、高温圧縮空気、発電機などが遮断されます。それでもエンジン火災のメッセージが消灯しなければ消火器を作動させます。なお、これらの操作は緊急を要する場合に実施する「メモリー・アイテム」と呼ばれている暗記による操作となります。

ボーイングの場合、エンジン火災時は、スラストレバー(エンジンの出力を変えるためのもの)を最小出力位置にする前にオートスロットル(自動推力装置)をオフにします。出力状況に合わせてスラストレバーも自動的に動くようになっているため、オートスロットルをオフにしないと最小出力位置にしても元の出力位置まで戻ってしまうからです。

ボーイングが、オートスロットル作動中でもスラストレバーを動くようにしている理由は、「パイロットが直感的に飛行状況を把握できる」からです。例えば、風の急変により減速してしまった場合にはスラストレバーが自動的に前に進むので、パイロットは直感的に「元の速度に戻るだろう」と感じ取れるからです。

なお、エアバスではA310までスロットルレバー、オートスロットルと呼んでいました。しかし、本格的なデジタル機となったA320以降になるとスラストレバー、オートスラストに変更しています。また、スラストレバーは自動的に動く設計ではないため、火災発生などでエンジンを緊急停止するためにオートスラストをオフにする必要はありません。

余談ですが、アナログ制御していた時代ではエンジンの振動はケーブルを介してスラストレバーまで伝わってきました。

ボーイング787のスラストレバー(左)とエアバスA350のスラストレバー(右)。ボーイング787のスラストレバーは、パイロットが直感的に飛行状況を把握できるよう、オートスロットル作動中でも自動的に動く
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