アメリカ政府に「最も都合のいい」次期総裁は誰か 必ずしも河野氏がベストというわけでもない

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河野氏はやや型破りであるという、その通りの評価を受けており、国内の世論に非常に敏感な、独立独歩の人物だ。同氏は安全保障同盟を強く支持しているが、その一方で、アメリカの見解に無条件に従うことはしない姿勢も見せてきた。

それを明確に示す例として、同氏は防衛相であった際に、国内の激しい反対を受け、物議を醸していた「イージス・アショア」ミサイル防衛システムの契約をキャンセルするという決断を下している。

河野氏は自身の著書で、経済、エネルギー、テクノロジー政策といった分野における日本の「戦略的自律」の概念を信奉している。「私は彼が、他国への攻撃や台湾への関与を積極的に推し進めるとは思わない」と河野氏本人と何度も会っているショフ氏は考えている。

太郎氏は父親と同じなのではないか、という疑念

自民党のより強硬保守派議員の間には、河野氏が、自民党の元幹部であった父親の河野洋平氏と同じ見解を持っているのではないかとの危惧がある。父親の洋平氏は、戦時中に日本は韓国や中国などの女性たちを帝国軍の慰安所で強制的に働かせていた責任があると認めようとしたために非難されている。

「太郎氏は父親と同じなのではないかとの疑念を持たれている」とモチヅキ教授は話す。「本人はそれを意識しており、中国や韓国に対してはあえて弱腰ではないところを示した。安倍氏はそれを評価したが、本能的には、河野氏はよりバランスのとれた外交政策をとっている」。

自民党総裁選で誰が選出されようとも、アメリカの政策立案者は、日本では当面不確実性が続くと見ており、4カ国会談で取り上げられるような大規模戦略の実行が遅れる可能性がある。

政府の現場レベルでは、中国との競争において重要な構成要素となる科学技術の革新、サプライチェーンの連携、サイバーセキュリティー、経済安全保障など、より広範囲に具体的政策を構築しようとしているが、一部はすでに停滞してしまっている。

「われわれは多くの会合を重ねているが、全体的に勢いを欠いている」と、笹川平和財団のワシントン事務所で新たに同盟関係に関する戦略を率いることになるショフ氏は言う。次の閣僚が誰になるか決まるまで、できることも限られている。「われわれは2カ月も、物事が決まるまで待ち続けているわけにはいかない」とショフ氏。「すでに出遅れているというのに」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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