楽器産業の優等生「ヤマハ」を悩ませる大問題 河合楽器やローランドに比べて勢いが弱い

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半導体不足に加え、ヤマハを悩ませるのは管楽器売上の落ち込みだ。息を吹き込んで演奏する管楽器は飛沫が飛ぶとして敬遠され、需要の回復が鈍い。ヤマハは世界唯一の総合楽器メーカーかつ管楽器世界シェアの約3割を握る。それだけにコロナの影響は大きいのだ。

管楽器の売上の多くが学校など教育向け需要に支えられているヤマハにとっては苦しい状況が続く。

ヤマハ銀座店に並ぶ管楽器(写真:ヤマハ提供)

今年の夏の高校野球では8月22日からブラスバンドの応援が消えたことが話題を呼んだ。コロナの感染再拡大により吹奏楽部が入場できなくなったのだ。

このように、国内外で学校での部活動やブラスバンドや楽団の活動は再開しつつあるものの一進一退の状況だ。管楽器の需要は学校など教育関連の顧客に支えられている。業績の完全回復には学校活動が正常化することが必要だが、今は難しい状況だ。

新興国の成長に期待を寄せる

そんなヤマハの頼みは新興国の成長だ。今はコロナで苦戦しているものの、ヤマハは新興国での需要拡大を追い風に2012年3月期から2019年3月期まで増益を達成してきた。なかでも中国はコロナ禍からの回復も早く、楽器需要も急増している。

2022年3月期の楽器事業の中国売上は、2020年3月期比で16%増の514億円、この10年で約3.5倍の伸びだった。2022年3月期の楽器事業の各地域売上では中国だけが2020年3月期比で16%と二桁増を達成する見通しで、今期も中国はヤマハの業績を支える重要な地域だ。

ピアノの品質だけでなく、調律などアフターサービスをはじめ現地メーカーはまだまだ及ばないところが多い。こうした強みを生かし、販売網の拡充やピアノ技術者の養成など現地でのアフターサービスの強化を進めて、成長につなげたいところだ。

中国の大学入試では、大会受賞歴があるなど、芸術面で優れた才能を持つ子供たちに対して優遇する制度もある。そのため、各家庭でピアノ教育が過熱しており、景気に左右されない底堅い需要がある。中間所得層も増加し、趣味として楽器を楽しむ需要も増加している。こうした需要を掘り起こすことが今後の焦点になる。

大竹 麗子 東洋経済 記者

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おおたけ・れいこ

1995年東京都生まれ。大学院では大学自治を中心に思想史、教育史を専攻。趣味は、スポーツ応援と高校野球、近代文学など。

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