歌舞伎由来の「幕の内弁当」中身が一口サイズの訳 「花道」「だんまり」「黒衣」も歌舞伎生まれ

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裏取引で実は専務の命令で動く場合、「アイツ、専務の差し金で発言してんだぜ」と訳知り人がささやく声。「差し金(さしがね)」も芝居用語だ。蝶々が細長い竹棒の先について、飛んでいる「鏡獅子」「保名」などの場面で後見がしならせて操る。

竹と蝶をつないでいるのが柔らかい金属、なので「金」の文字。そのしなり方が絶妙、蝶のほか、鳥は「楼門五三桐」「関の扉」、恐い人魂は焼酎の火を差し金に吊り、「再岩藤(ごにちのいわふじ)」「四谷怪談」などで活躍する。後見は黒衣の場合が多い。

「黒衣(くろご)に徹します」。先ほどの専務命令の人は表で「傀儡(かいらい)」として活躍するのだが、専務の陰で裏取引をしたり、帳簿をごまかしたり、社長追い落としの……(ドラマの見すぎ)。

「あいつが黒幕」。つまり姿を見せず、実は専務の背後に、合併を持ち掛けるライバル会社の思惑があって……謎の人物。つまり、ドラマではシルエットで浮かぶ。顔も名前もあきらかではない。黒=見えない、という芝居ルール。死んだ人がいつの間にかいなくなるのは黒衣2人が黒い幕を広げて隠し、舞台上から消すので「消し幕」ともいう。

「暗闘」と書いて「だんまり」と読ませる

「あいつダンマリをきめこんでるぜ」。刑事ドラマの被疑者沈黙。もちろん「黙る」からきているが、歌舞伎では「宮島のだんまり」「市原野のだんまり」などの作品名にもあり、「四谷怪談」などでも途中、出演者全員が手探りをする場面がある。

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真っ暗闇で見えない設定。長唄「露は尾花(つゆはおばな)」などの曲が流れ、宝物を奪い合ったり、立ち回りをしたり、敵味方入り混じって互いの様子を探り合うというスローモーション場面だ。これが面白い。漢字では「暗闘」と書いて「だんまり」と読ませる。言葉は生きている。

歌舞伎俳優のコマーシャルは、「勘定奉行」のように歌舞伎らしいものは少ない。スーツ姿や普段着素顔でさまざまだが、最近面白かったのは「飲みすぎ防止の胃薬ドリンク」。つまり二日酔いの薬を宣伝していた俳優が契約期限切れを待って、今度はビールのCMに出ていたので笑ってしまった。江戸時代から歌舞伎役者は名前で売り出す。当然タイアップ商品や役者名が付く人気アイテムがある。

2020東京オリンピックの市松模様は「佐野川市松(さのがわいちまつ)」の着ていた衣裳の柄から。市松人形も美貌の女形に似せたため。茶色でも「團十郎茶」「梅幸茶」「路考茶」「芝翫茶」など役者好みの色が色名事典に掲載されているので比べてみてほしい。三代目澤村田之助は人気アイドルの女形。「田之助紅」という口紅が商品化された。

三代目中村歌右衛門(初代芝翫)は起業してダブルインカム。店名は「芝翫香(しかんこう)」。びんつけ油、白粉から売りだしたが櫛、かんざしのアクセサリー「芝翫好み」という人気商品も。経営者はかわったが店名は200年続き、いまでは宝飾店。きらびやかさはかわらない。

葛西 聖司 古典芸能解説者

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かさい せいじ / Seiji Kasai

NHKアナウンサーとしてテレビ、ラジオのさまざまな番組を担当してきた。現在はその経験を生かし、歌舞伎、文楽、能狂言、邦楽など古典芸能の解説や講演、セミナーなどを全国で展開。 日本演劇協会会員(評論)、早稲田大学公開講座、NHK文化センター、朝日カルチャーセンター、山梨文化学園講師。著書に、『僕らの歌舞伎』(淡交社)、『文楽のツボ』(NHK出版)、共著に『能の匠たち』(小学館)など著作も数多い。

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