締め切りは「守る」ではなく「延ばす」のがいいワケ 「忙しい」という理由で依頼を断ってはいけない

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もう限界だった。ところが、ワンダは昇給も休暇も求めるつもりはなかった。辞めることにした。リーアが入ってきたとき、ワンダは辞表を書いていた。リーアは母親に、それとは違う道を選んでほしかった。そこで、もっと穏やかなメールを書くことを提案した。

ワンダはリーアの助けを借りながら、毎週、無報酬で8~10時間余計に働いているという事実をそのメールで伝えることにした。そして、その分も給料を払ってもらうか、あるいは、5日間の有給休暇をもらって、これだけ長い時間余計に働いた疲れを癒やすかしていいのではないかと感じていることを書き記した。

すると、医師からすぐに返事が来た。それほど多く余計に働いているとは、夢にも思わなかったという。そして、今後、超過勤務の時間の分を全部請求するようにワンダに頼んだ。そのうえ、ワンダはただちに5日間の有給休暇を与えられた(しかも、スパ用のギフト券もいっしょに!)。ワンダが休暇を楽しんでいる間は、代わりのアシスタントを見つけて穴埋めしてもらうそうだ。それから2人は、日時を決めて相談し、パートタイムのアシスタントを雇って週に1日手伝ってもらう可能性を検討することにした。

意外と締め切りの融通は利くので、交渉の価値アリ

ノーと言うことに対するワンダの恐れは、無用のものだったことがわかった。医師ががっかりするだろうというワンダの恐れは、間違っていた。タイム・リッチ(時間的に裕福)になることについて私が面接した人のほとんどが、昇給を求めて交渉できるのと同じように、仕事での時間を求めて交渉する選択肢もあることを忘れていた。

恥ずべき話だけれど、経営者は従業員に、締め切りが融通の利くものかどうかや、もっと多くの有給休暇を求めることが可能かどうかを伝えない場合が多い。その結果、下級の従業者や女性といった、タスクに追い立てられているタイム・プア(時間的に貧乏)な人々は、より多くの時間を求める可能性がいちばん低い。けれど、求めるべきだ。交渉の研究者たちは長年にわたって、従業員が昇給を求める最善の方法を探ってきた。従業員は、時間についても同じぐらい積極的に交渉できるし、そうするべきでもある。

経営者が締め切りの延長依頼と有給休暇取得にどれほど理解があるかを知ったら、あなたは驚くかもしれない。実際には、従業者を失うコストは、短い休暇や少額の昇給を与えるコストよりもはるかに大きい。ワンダが仕事を辞めたくなかったのと同じぐらい、医師もワンダに辞めてもらいたくはなかった。

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