300万円でパン屋をプロデュースする男の正体 変わったネーミング、店舗ごとに変えるレシピ

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しかし一方で、製法の変化や機械の進化などにより、職人に頼らなくてもパンがつくれるようになってきている現実がある。

「もちろん、製法が難しいパンもあります。しかし難しいパンが売れるとは限らない。例えば珍しい酵母や希少な粉を使って作ったパンは、一部のパン好きの方には賞賛されるかもしれません。でもベーカリーとして街を盛り上げることができるのは、もう少し老若男女、みんなの心を掴める存在なのではないかと。子どもに憧れの職業を聞くと『パン屋さん』という答えが多い。町のベーカリーというのは、そんな大衆的な存在なのではないでしょうか」(岸本氏)

こうした自身にある“ベーカリー像”を実際に確認できたのが、2013年、東日本大震災の被災地におけるベーカリープロデュースだったという。岩手県大槌町の公益社団法人からの依頼を受け、現地の人へのヒアリングで最も求められていた“町のパン屋”の開業を支援した。

焼きたてのパンを高齢者や小さな子どもが喜んで食べる様子を見て、「共感を肌で感じた」という。町のパン屋は地域を彩り、盛り上げて行く存在だという思いも強くした。同氏のプロデュース業の基本形がここでつくられたと言えるだろう。

そして2013年、ベーカリーをプロデュースする法人としてのJBMを設立するに至る。同社の事業は、修行などの経験もなくゼロからベーカリーを立ち上げようとするクライアントに対し、いわばオーダーメイドのベーカリーをつくることだという。

基本料金300万円(税抜き)で商圏調査及び出店場所の選定、商品である食パンの開発、技術指導、接客指導などを行う。店舗設計やオペレーション、ブランディング、店舗デザインなどは別途オプションとなる。

同社のプロデュースで特徴的なのは、店舗ごとに食パンのレシピを変える手法だ。皮の薄さや水分量が多めであること、甘味があるなどの基本的なレシピをもとに、地域の特性やクライアントの希望に基づいて変えていくという。店名や店舗デザインもそれぞれプロデュースする。変わったネーミングをつける理由は、同社プロデュースとしての独自性を表現するほか、町のパン屋としての“大衆性”を持たせるためだという。

店舗オリジナルの紙袋。他にない個性的なデザインのため、客に持ち歩いてもらうことによる宣伝効果が大きい(撮影:今祥雄)

「僕は志村けんさんが大好きなんですが、町のパン屋も大衆的という意味で、志村さんのような存在であっていいのかなと思います」

こうしたユニークな店舗づくりはまた、SNSの話題になりやすいというビジネス利点もある。さらに地域によっては観光スポットの一つとなっているほか、“うちの町のパン屋はこんな店”などとSNSやネット上でクロストークが交わされることもあり、地域を盛り上げるという役割の一端を担っている。

放射線技師から高級食パン屋に転身

同社プロデュース店舗の一つとして、2020年10月、神奈川県川崎市にオープンした「スターの昼寝」を訪ねた。都内から30分程度、ベッドタウンである小田急線生田駅南口目の前に、小さいながらレインボーカラーの目立つ店舗が存在感を発揮。特撮ヒーローのようなキャラクターを描いた看板がアクセントとなっている。

オーナーの守谷孝伸氏はもと放射線技師。退職にあたり、企業社長である息子から「新業態として流行している高級食パンをやってみたい。オーナーをやってみないか」という相談を受け、JBMに依頼することとなった。

「180度違う業種への転身ですが、患者さんと接するのが好きだったから、接客は向いているのかなと。それに『パン屋は地域を盛り上げる存在であるべき』という岸本さんの哲学に感動し、ぜひやってみたいと思いました。パンは作ったことがありませんでしたが、偉そうなことを言えば、基本は科学というのでしょうか。分量や温度設定などをレシピどおりにきちんとすることで、おいしいパンが作れます。妻や娘に手伝ってもらうほか、パートでパンを作ることが好きな方に来てもらっています」(守谷氏)

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