カマキリを入水自殺させる「寄生虫」の驚きの生態 生態系さえ変えてしまうハリガネムシのヤバさ
私たちが比較的目にしやすい寄生虫で、秋口に道路上で車にひきつぶされたカマキリの傍(かたわ)らで、宿主と共倒れになったハリガネムシを見たことがある人もいるだろう。
故郷に河川などがある自然豊かな環境で育った人なら、子どものころに川や沼などの水辺でおぞましい光景を目撃したことがあるかもしれない。カマキリのお尻と思しきところから、のたうちまわるようにして長い長い針金のようなものが飛び出してくるシーン。それはちょっとしたホラー体験であり、子どもにトラウマを植えつけるには十分すぎるほどの迫力があったはずだ。
ハリガネムシは宿主の行動を操る
興味深いのは、このハリガネムシという寄生虫が宿主の行動を操るということだ。ハリガネムシに寄生されたカマキリはむやみやたらと歩き回るようになり、そのうち、きらきらと光を反射する水面を見ると、ろくに泳げもしないくせに水の中へ入っていったり、飛び込んだりしてしまう。
傍目(はため)にはカマキリが世を儚(はかな)んで入水自殺したかに見えるこの行為は、その体内に寄生しているハリガネムシによってそう仕向けられたものだ。
科学者が成熟したハリガネムシの寄生している宿主の脳を調べたところ、行動量や場所認識、視覚に関わるいくつかの神経伝達物質が、異常に発現していたという。そのなかには、ハリガネムシが大量に生産しているものも含まれているそうだ。
ハリガネムシに寄生されたカマキリは、水面の反射光に含まれる、電磁波の振動が水平方向に偏った「水平偏光」に反応していることが報告されている。つまり、この寄生虫はカマキリの脳に作用する神経伝達物質によって、彼らを活発に動きまわらせながら、水面の光を好むように仕向け、太陽や月の光を反射して輝く水面に身を投じさせているということになる。
同じことはカマドウマに寄生する種でも行われている。また、コオロギに寄生する種では、コオロギを操って鳴かなくさせるという。宿主のエネルギー浪費を防ぐと同時に、鳴き音で捕食者に見つかって一緒に食べられてしまわないようにしているのだろう。
ただの針金のような見た目をした生物が、別の生物の行動をここまで複雑に操っているということに驚かされる。
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