緊急事態宣言を何度発出するかは、医療提供体制をどの程度拡充するかに依存する。現状のままだと、最低でも2回、多いと4回は、これからも緊急事態宣言が発出されることになる。医療提供体制が現状の2倍以上になれば、緊急事態宣言の発出の可能性がかなり低くなる。ワクチンの感染予防効果が低くなると、緊急事態宣言の回数は多くなる。
ここで、重要なのは、医療提供体制が現状のままだと、ワクチン接種が終了した後も緊急事態宣言の発出が避けられないが、新型コロナによる死者数は大きくは変わらないということだ。緊急事態宣言の回数が多くなれば、その分、経済的な損失が大きくなる。経済的な損失は、失業者を増やし、自殺者を増やすという意味で命に関わる。
9月7日に東京大学大学院経済学研究科のチーム(シカゴ大学・Quentin Batista氏、東京大学・藤井大輔特任講師、仲田泰祐准教授)が発表した「コロナ禍の自殺:年代別・性別の分析」によると、失われた余命の長さで測ると、コロナ禍での超過自殺者の失われた余命の合計は18万年、コロナ感染症で死亡した患者の失われた余命の合計は16万年となる(2021年7月末現在)。
行動制限などによる自殺のインパクトは感染症による死亡者と同等またはそれを超えるのである。また、貧困が増えると、子供の教育にも影響する。一時的に、医療提供体制を充実できれば、緊急事態宣言の発出を減らし、若年者の自殺や子供の教育への悪影響を和らげることができる。
一方で、新型コロナウイルス感染症による死者数は大きくは変わらない。彼らのシミュレーションから読み取れるのは、ワクチン接種率を引き上げることが重要で、ワクチン接種率が一定水準のままであれば、コロナ感染によって亡くなる方の人数が大きく変わらないことである。一方、医療提供体制を拡充することで、緊急事態宣言の発出回数を減らすことができる。
感染リスクで行動変容する人間を考慮
古瀬氏の予測では、人々は感染リスクとは無関係に感染対策のレベルを決めていると想定されていた。藤井氏らのチームの研究結果は、緊急事態宣言などで政府が経済活動のレベルを決めて、人々の人流がそれに応じて変動するという想定で分析されていた。
しかし、現実には、人々は感染リスクが高いと認識すると、自発的に外出を抑えて感染対策を強化する。そうした人々の合理的な行動をモデルに取り入れて、感染と経済の関係を明らかにしたのが前出の久保田氏の分析である。
基本的な分析結果は、他のシミュレーションと似ている。80%の人がワクチンを接種しても集団免疫は難しいので、今後も重症者数が多い状況が続き、医療逼迫は1年以上続くという。
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