ワクチン接種が行き渡った後に避けられない難題 医療提供体制を拡充できなければ多方面に悪影響

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9月3日に開かれた「新型コロナウイルス感染症対策分科会(第7回)」では、京都大学の古瀬祐気特定准教授が、「新型コロナウイルスワクチン接種後の社会における感染拡大」と題した今後の感染予測を発表した。平均で接種対象年齢の75%程度が接種すると考えて、デルタ株の感染力を基本再生産数が5と想定し、ワクチンの効果を感染予防が70%、入院・重症化予防が90%という想定だ。

その結果、感染は主にワクチン非接種者の間で続くため、私たちがコロナ以前の生活に戻って、まったく感染対策をしなかったとしたら1回の流行である150日間で累積死者数が10万人を超えるという。

これは、2020年4月15日に当時、厚生労働省の新型コロナクラスター班に属していた現・京都大学教授の西浦博氏が記者会見で、「人と人との接触を8割減らさないと、日本で約42万人が新型コロナで死亡する」という予測を発表したものと本質的には変わらない。ワクチン接種率が75%になったとすれば、免疫がない人たちは日本人の4分の1なので、西浦氏が予測したときと比べてワクチン接種が終了した後、コロナで死亡する人たちも42万人の4分の1になり、10万人強となるという試算だ。

ただし、古瀬氏によれば、私たちの感染対策のレベルを2021年の1月から2月頃のイベントの開催制限や飲食店の時短営業程度にすると、150日間の累積死者数は1万人程度に減り、その水準は毎年インフルエンザによる死者数と同じくらいになる。

ワクチン接種してもこのような状況というのは悲観的だ。どうすればいいだろうか、古瀬氏のシミュレーションによれば、ワクチンの接種率を80%程度まで引き上げることができれば、ほとんどの人がマスクをして3密を避ける生活を続けることで150日間の累積死者数は1万人程度にまで減らせる。ワクチン接種率を引き上げれば、感染対策のレベルを下げても死者数を増やさないですむのである。

一定割合のワクチン非接種者が感染するまで感染が続く

ワクチン接種率が90%にならない限り、ワクチン非接種者を中心に感染拡大が続き、医療逼迫が発生するため、何度か緊急事態宣言が発出されることになる。最終的には、一定割合のワクチン非接種者が感染するまで、感染が続くということになる。

つまり、1回の流行での死者数は緊急事態宣言で抑えることはできるが、流行が何度も続き最終的な死者数は対策の程度ではあまり変わらない。

行動制限による感染対策を強化することで、1回の流行による死者数を減らし、長期にわたってゆっくりワクチン非接種の間での感染を拡大させていくことのメリットは、医療提供体制の負荷を避けられることに加えて、将来、優れた治療薬が開発されて死者数を抑えられる可能性があることだ。一方で、行動制限による感染対策を強化することで、人との交流が失われたり、教育の効率性が低下したりといった弊害も発生する。

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