9.11から20年「対テロ戦失敗」招いた米国の勘違い アフガンからの撤退を余儀なくされたワケ

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アメリカの懸念はそれだけではなかった。習近平指導部が本格始動してまだ1年。中国は「一帯一路」構想を提唱し、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を立ち上げたばかりだった。そこから増強された軍事力を背景に、海洋侵出を本格化させていく。おかしい。黙って世界の、もっと言えば超大国のアメリカのいうことを黙って聞くはずの中国が、そうではなくなってきている。その兆しだ。

それからアメリカが中国の脅威を確信に変えるまでに時間はかからなかった。トランプ政権が誕生し、対中強硬路線にシフトして米中貿易戦争を開始したことはあらためるまでもない。その上をいくように昨年、中国が香港を呑み込んでしまったことは、習近平の権威主義が世界に向かって牙を剥いたことを意味している。

鄧小平時代から受け継がれる「先富論」と「韜光養晦」

「白いネコでも黒いネコもで、ネズミを捕るのがいいネコだ」と鄧小平は言った。毛沢東の文化大革命によって疲弊した国力と中国経済を立て直すために、社会主義だろうと資本主義だろうと関係はない、とにかくまずは豊かになればそれでいい。改革開放路線を急速に推し進める背景事情を端的に語ったものだった。

そして、富める者から富め、富めるだけ富め、とも説いた。「先富論」である。その代わり、先に富める者は、追いつかない者へ富を分配することも提唱している。そうやって人民を豊かにする。とにかく国が豊かになることが先決だ。

そこに加わるのが「韜光養晦(とうこうようかい)」だった。「才能を隠して、内に力を蓄える」と日本では訳されるが、極端に言えば「能ある鷹は爪を隠す」とも置き換えられる。

外資を取り込む改革開放路線も天安門事件でつまずきをみせる。それでもまずは富国を優先に従順な姿勢を世界に示す。やがて、それだけの国力を蓄えたときにはじめて爪をみせる。そうして世界の中心の華として咲く「中華」が栄えるときを迎える。鄧小平の戦略はそこにあった。

ただ、そのタイミングが今であるのか、習近平の権力集中型の強硬路線を、毛沢東の個人崇拝を否定し集団指導体制を堅持した鄧小平が納得しているかどうかは、また別の話だ。

それでもこの20年間を振り返ったとき、ビン・ラディンの掃討にはじまったアフガニスタンの元の木阿弥を注視するよりも、戦略資源を対中政策に振り向けなければならなくなった、20年前に中国の本性を見逃したことに今日の失敗があるはずだ。アメリカ同時多発テロは、その起点としての歴史を刻む。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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