「グローバリズムという病」にかかった日本 シンガポールのような国が、本当に理想なの?

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シンガポールは「明るい北朝鮮だ」という冗談がある。2012年、米国の調査会社であるギャラップ社は、笑いの頻度や休息時間の大小など日常生活の「充実度」に関する世界148カ国を対象にした調査結果を発表した。

日本の「シンガポール化計画」は正しいのか?

CNNによると、最も「不満」を抱いていたのはシンガポール国民で、逆に満足感が最も多かったのは中米パナマと南米パラグアイだった。「幸福度」が高い上位10カ国のうち中南米諸国が8カ国を占めた。調査は前年の2011年に、148カ国の国民約1000人ずつを対象に実施された。前日の生活で「十分休めたか」「何か面白いことがあったり興味を持てることをしたりしたか」「たくさん笑ったか」「敬意をもって接しられたか」などの5項目を質問。「はい」「いいえ」の回答率を比較対照することで、各国民のプラス思考や人生への前向きな態度、感情の表現度などを探ったということである。

複数の学者が、日本の経済成長のロールモデルとして称賛しているシンガポールは、1人当たりの国内総生産(GDP)では世界でも最上位クラスだが、国民の生活不満度が最も高いという上記の結果をどのように見ればよいのか。

この調査とは別の、ギャラップ社の国民の感情に関する150か国の調査(2009年~2011年)では、感情の起伏が最も乏しいのはシンガポール人で、最も豊かなのはフィリピン人であるという結果が出ている。「昨日、よく微笑んだり笑ったりしたか?」、「昨日、興味深いことを知ったり、したか?」といった質問に対し、シンガポール人は「はい」という回答が36%と最も低かったということである。

これらの調査結果だけを見て、シンガポール国民は不幸であり、感情の起伏にとぼしく、無気力になっていると結論するのは早計というものだが、この国がかなり特異な性格を持った国であると判断することは可能だろう。

F1を誘致したり、カジノ・リゾートを誘致したりと、海外資本を呼び込み、世界中の頭脳を金で呼び寄せ、福祉予算を極限にまで削減して実現してGDPを押し上げている一方では、所得格差を現わすジニ係数がアジア最高レベルであり、報道の自由は他のアジア諸国に比して最も制限されている国でもある。

外形的には高層ビルが立ち並び、ゴミがなく、路上生活者のいない快適な国造りをしているように見える。だが、貧富格差が最大レベルで固定化され、福祉は自己責任の名のもとに切り捨てられ、軍事費はGDPの4分の1という軍事大国の姿は、わたしにはかなり歪んだものに見える。

このシンガポールの姿は、まさにグローバル時代のひとつの典型であり、シンガポールの富裕層こそはグローバル人材のロールモデルというわけである。なぜならそれは、シンガポール政府が喧伝するように、グローバル企業が最も活動しやすい国であるからである。

資源に乏しく、歴史もなく、華人を中心とした多民族国家である人口約540万人ほどの人口国家が生きていくために選択したのは、金融と海外資本誘致、独裁的な体制と、新自由主義的な経済政策であったわけだが、歴史も文化も言語も家族構造も異なる日本がこの都市国家をロールモデルにはとうていできないというほうが、常識的ではないか。

なぜ、人口減少が進み、経済成長も見込めなくなり、消費資本主義の新しいフェーズに入った日本が、成熟国にふさわしい経済モデルを作ろうとせずに、発展途上段階にあるような国や、人工的な金融国家の後追いするのか、わたしはまったく理解に苦しむのである。では、上記以外の解決策はどこにあるのか。くわしくは本書をお読みいただきたい。

平川 克美 作家、隣町珈琲店主

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ひらかわ かつみ / Katsumi Hirakawa

1950年、東京・蒲田の町工場に生まれる。75年に早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、内田樹氏らと翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを設立。1999年、シリコンバレーのBusiness Cafe Inc.の設立に参加。2014年、東京・荏原中延に喫茶店「隣町珈琲」をオープン。著書に『株式会社の世界史』(東洋経済新報社)、『小商いのすすめ』(ミシマ社)、『移行期的混乱』(ちくま文庫)などがある。

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