自ら望んだ「在宅ひとり死」をやり遂げた人の実際

「最期まで気ままに暮らしたい」を支えた人たち

田中さんの部屋の押し入れにあった音楽CD

「田中さんが好きなものを摂っていらっしゃることを、とやかく言うことはありません。何を大事に思われ、どう暮らしたいのか。看取り士としては、ご本人の暮らしぶりをただ尊重するだけですから」(西河)

「幸せなひとり死」に必要なこと

やがて外出もままならなくなると、女性嫌いのはずの田中は、西河の訪問予定日を部屋のカレンダーに記入するようになる。さらにはトマトや梅干しなどの食べたいもののメモを、西河の訪問前に書きとめ始めた。

一連の変化を踏まえ、西河は訪問予定のない4月8日に2人の看取り士と一緒に田中宅を訪問。彼の誕生日サプライズだ。

田中は小さなアルミ缶のビールを手に「うれしいなぁ、うれしいわ」と、約1カ月ぶりの味に舌鼓を打った。自分が巡った中で印象深い温泉についても、機嫌よく話したという。

田中への対応を一任したケアマネジャーは、西河のねばり強い対応力を指摘する。

「最初に閉め出されても少しもめげず、最後は田中さんからとても強い信頼をおかれていました」

風呂好きな田中は、西河にすすめられて入浴を再開し、亡くなる3日前まで毎日入っていた。

「最後のほうは西河さんの訪問予定時刻の前に入浴されていて、やがて体力的にきつくて自力で(浴槽から)上がれなくなると、今度は西河さんに自分の身を委ねて、介助されるほどでしたから」(ケアマネジャー)

日本看取り士会の柴田久美子会長は、気持ちがころころ変わる、看取り期の人の端的な事例と指摘する。大好きなお風呂から自力で出られなくなった時点で、田中も支えてくれる人が必要だと気付いたのではないかという。

「認知症になっても自宅にいたいと懇願されていた別の男性も、希望通りに先日旅立たれました。どちらもご本人が最後まで続けたい暮らし方と、その尊厳をしっかりと見つめて寄り添う、看取り士が支えて実現したことと思います。支える人がいれば、誰でも在宅で幸せな死を迎えられるんです」(柴田会長)

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