「寂しいからテレビをつけるというのでは、たぶんないんです。普段からテレビを24時間つけっぱなしで過ごされていたので、『これでよし』と納得されたんだと思います。田中さんが最後までまっとうしようとされた暮らし方でした」
滋賀県で暮らす西河は、関西弁の抑揚でそうゆっくりと話す。田中の生き方に寄り添い、尊重する彼女の姿勢だった。
しかし、西河が田中にここまで信頼されるのは簡単ではなかった。
女性が苦手な男性宅の玄関で閉め出された日
西河が、ケアマネジャーから田中が極度の女性嫌いだと聞かされたのは、最初の面会後。ベテランの彼女も田中にはまるで取りつく島がなく、困り果てて西河に依頼してきたという。
定年退職後の田中は趣味の温泉めぐりに没頭し、車での移動生活を約5年間続けた。だが、がんが見つかって入院。放射線治療を受けて退院していた。
最初の面会から数日後、西河も1人で訪問すると案の定、田中に玄関ドアから閉め出された。彼は多少酔っていて、口から酒のにおいがした。
「自分で(生活)できるから迷惑なんだよっ!」
「はい、わかりました。今日は帰りますね」
西河は早々に退散し、数日後に素知らぬ顔で再訪した。
「また、来たんか。……仕方ないな」
田中はこのときドアを閉めなかった。室内に入ると飲みかけのパック牛乳からの饐(す)えた臭いと、アルコール臭が漂っていた。西河はちょっと窓を開けましょうかと言いながら換気をして、部屋をそっと片付けた。
この頃の田中は、まだ近所に歩いて買い物に行くことができた。配食サービスにはすぐに飽きて、毎回の食事はチョコレートと、ビールか焼酎のみ。
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