アパレル初!謎の1兆円未上場企業「SHEIN」の正体 中国発!Z世代を引きつける「理由」と「課題」は

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第3に、より中長期の視点になるが、SHEINのようなファストファッションモデルが、「そもそもサステナブルなのか」という疑問が残る。

【課題③】「そもそもサステナブルなのか」という問題

アパレル業界は、産業別にみると、温室効果ガス排出における世界の全産業の8%を占めるともいわれる。そして、その多くが素材および製品の生産段階で生まれる。

例えば、Tシャツを1枚生産するのに消費する資源は水が約2500L、CO2は約4kg排出される。反芻動物からうまれるウール、アルパカ、カシミヤなどの素材となると、より多くの温室効果ガスが生産過程で出てしまう。

すなわち、アパレル業界において環境負荷を下げるためには、リペアして長く使ったり、二次流通やリサイクルを増やしたりして、新品の生産・販売は可能な限り減らしていくしかない。大量生産・大量消費を止め、適量生産・適量消費に切り替えていくことが必要なのだ。

その点SHEINのようなファストファッションは、大量生産・大量消費と相性がよく、安価で耐久性の低い商品も多いことから、「サステナビリティ」の観点で疑問が残る

EUでは、欧州グリーンニューディール政策の中で繊維分野での循環型経済モデルが現在検討されているが、ファストファッション的なアプローチには早晩規制が入っていく可能性もある。このような「カーボンニュートラル、グリーン化」の流れに対し、SHEINが今後どのような対応をとっていくのか注視したい。

今後も、「さまざまな観点」からの見極めが重要

さて、中国のファストファッション、D2Cブランドといえば、2019年にナスダックに上場した「如涵(ルーハン)」が思い浮かぶ。同社は、KOLファシリテーターとしてインフルエンサーを活用したD2Cブランドを次々ローンチし売り上げを拡大、大きな話題となった。

しかしながら、ビジネスが焼き畑的でサステナブルではなく収益が悪化。2021年4月20日に非公開化に踏み切り上場廃止となった。上場廃止時の時価総額は2億8100万ドル(約304億円)と、上場時に比べ7割以上減少。投資家は痛手を被ったのが記憶に新しい

SHEINのような「デジタル系のデカコーン」は一見派手さもあり、上場した場合、市場の熱狂が予想される。ただ、「本当に『持続的な成長』が可能なのか」「サステナブルなビジネスなのか」など、さまざまな観点からの見極めが、今後にさらに必要になるだろう。

福田 稔 KEARNEYシニアパートナー

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ふくだ みのる / Minoru Fukuda

慶應義塾大学卒業、IESEビジネススクール経営学修士(MBA)修了。電通国際情報サービス、欧州系戦略コンサルを経て、A.T. カーニー入社。主に、アパレル・繊維、ラグジュアリー、化粧品、小売、飲料、ネットサービスなどのライフスタイル領域を中心に、戦略策定・ブランドマネジメント・グリーントランスフォーメーション・DX等のコンサルティングに従事。プライベートエクイティやスタートアップへの支援経験も豊富。経済産業省の産業構造審議会 繊維産業小委員会委員、繊維製品における資源循環システム検討会委員、ファッション未来研究会副座長。著書に『2030年アパレルの未来』『2040年アパレルの未来』(共に東洋経済新報社)がある。

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