知ると奥が深い「腕時計の振動数」が意味すること 設計者の時計作りの哲学や最新技術が反映

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調速機のテンプは、テンワという金属の輪とその中にセットされたヒゲゼンマイで構成され、テンワ中心の天真(てんしん)という軸を中心に、右回りと左回りを交互に「回転往復運動(=振動)」を繰り返します。つまり、振動数はテンプの動きのことを指しているわけです。

この運動のカギとなるのが、圧縮されると元に戻ろうとするゼンマイの性質。アンクルから伝わった力でテンワが右に回転すると、その中心軸に取り付けられたヒゲゼンマイが圧縮されます。すると今度はゼンマイが解けようとする力で、テンワは逆の左方向に回転するのです。

脱進調速機は“時計の中の時計”

機械式ムーブメントのテンプは、1秒間に何回も規則正しくこの「回転往復運動」を繰り返してアンクルの動きをコントロールし、アンクルを一定の正確な周期で往復運動させます。その周期に従ってガンギ車も少しずつ回転し、ガンギ車につながった歯車輪列と針も規則正しく回ります。

その結果、機械式時計は正確に時間を示すことができる。ゆえに、脱進調速機は時計の歯車と針をいつも一定の正確な間隔(タイミング)で動かすための、“時計の中の時計”とも言えるメカニズムなのです。

円状のテンワと、その中に配置されている渦巻状のものがヒゲゼンマイ(写真:LEON編集部)

スペックに書かれている振動数は、テンプの往復回転運動(=振動)の単位時間あたりの振動回数を表したもの。

例えば「2万1600振動/時」と書かれている場合は、1時間に2万1600回振動する、ということ。となると1分間の振動数は360回なので、1秒間あたりの振動数は6振動。一般的に振動数は1時間あたりか1秒間あたりで表記されますが、物理記号のHz(ヘルツ)で表記する場合は1往復の動きを1回と数えるので、6振動はその半分の「3Hz」になります。

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