知ると奥が深い「腕時計の振動数」が意味すること 設計者の時計作りの哲学や最新技術が反映

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さて、このテンプの振動数は、機械式時計の性能にどう影響するのでしょうか。物体の運動は「慣性の法則」に基づいて、運動する物体の重さが大きいほど、またその運動するスピードが高ければ高いほど安定します。

おもちゃのコマを例にして考えてみましょう。コマの動きを安定させるのにいちばん簡単で確実な方法は、コマに大きな力を伝えてできるだけ高速で回させ、コマの運動エネルギー(=慣性モーメント)を大きくすること。同じコマを比べたら、回転数が速いほど動きは安定します。低いスピードで回っているコマを指で弾くと簡単に倒れますが、高速で回っていればふらつくことなく安定して回転し続けます。

「A.ランゲ&ゾーネ」のパーペチュアルカレンダーを搭載した自社製ムーブメントCal.L021.3。2万1600振動/時(写真:LEON編集部)

時計のテンプの振動数もコマの回転数と同じで、振動数が高いほどテンプは安定して動きます。そして、テンプがコントロールするアンクルやガンギ車の動きも安定します。時計を振るなど、外から力を加えても安定して動き続けます。つまり、テンプの振動数を高くすると、高い精度を実現しやすいのです。

振動数を高くすると別の問題が出てくる

ただ、振動数を高くすると、別の問題が出てきます。まず問題なのは、ムーブメントのエネルギー消費が増えてしまうこと。その結果、主ゼンマイの持続時間、つまりパワーリザーブが短くなります。

そしてもうひとつ問題になるのは、テンプまわりの部品の耐久性です。テンプの振動数が高ければ、テンワの回転往復運動のスピードも高い。天真も高速で回るわけですから、この軸を支える軸受け(穴石)の摩擦も大きくなります。だから振動数が高いムーブメントでは、テンワと穴石の寿命が短くなるのです。天真と穴石の間の摩擦を減らすために穴石には潤滑油が注してありますが、この潤滑油も振動数が高いと減りが早くて、オーバーホールの間隔も短くなります。

しかし最近では、テンワを軽い素材にしてエネルギー消費を少なくしたり、テンプの軸受けの構造や素材を変えて潤滑油なしで長期間使えるようにしたりして、ハイビートの問題をクリアした機械式ムーブメントも登場しています。腕時計の機械式ムーブメントの振動数は、精度とパワーリザーブ、耐久性を考えて決められています。この数字には、設計者の時計作りの哲学や最新技術が反映されているのです。

ここまでお伝えしたところで、次回はハイビートとロービートについて解説します。

(文/渋谷康人)

■ お問い合わせ
A. ランゲ&ゾーネ 0120-23-1845
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