感染リスク承知で「ごみ収集」清掃員の悲壮な覚悟 当たり前の暮らしを支えてくれる人がいる

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その作業を繰り返し、午前中に3回、午後からは1回収集して総量約1トン分のオムツを北清掃工場に運び入れた。

業務を担当した主任に作業に当たって不安や恐怖を感じたかと尋ねたところ、「小プに積むわけではないので破裂する危険がないためそれほど感じなかった。不安や恐怖は作業に当たる人の気持ちによるのではないか」と述べた。また、業務命令として業務に当たることについての見解を尋ねたところ、「取りに行かないわけにはいかない」と述べた。

東京都北区の清掃職員の平均年齢は52歳であり、常日頃から感染にかなり配慮をしながらリスクと背中合わせで作業をしている。そのような状況の中でも、業務が割り当てられれば、たとえ自らが感染して家族にも感染させる危険性があるとわかっていても、リスクを承知のうえで収集に向かい業務を全うしていく。

このような気概の清掃職員がいるがゆえ、私たちの衛生的な生活が成り立っているとしっかりと認識しておく必要がある。

タワマンごみ、清掃車タンク洗浄…

コロナ禍での収集作業の中で、まだそれほど知られていない作業がある。新宿区で確認したかなり感染リスクが高いと思える作業を2つ紹介しておく。

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1点目は、大型タワーマンションなどで採用されているごみ貯留排出機(以下、貯留機)からの収集作業である。住民がいつでもごみを出せ、その散乱、汚水漏れ、悪臭や害虫の発生が防げ、しかも収集作業の労力をそれほどかけずに行える装置として近年導入されているのが貯留機である。

ドラム式の貯留機に投入されたごみは、ドラムの回転によって取り出し口方向に移動され、密閉されたドラム内に圧縮して貯留されていく。収集時は貯留機の取り出し口のふたを開け、コンベアで清掃車のバケットまで動かして積み込んでいく。

作業員にとってごみ袋の積み込み作業の負担が軽減されるが、貯留機のふたを開けたときの異臭や、圧縮されて袋が破けたごみからの粉塵(ふんじん)が、貯留機周辺に舞う。マスクをしていても、業務の遂行をためらいたくなる作業である。

この貯留機に格納されたごみの中には、軽症で自宅待機する感染者のマスクやティッシュなども混ざっているかもしれず、地下室等で換気の悪い場所に設置されている貯留機からのごみの収集は、かなり感染リスクが高い作業となる。

2点目は、清掃車のタンク洗浄である。清掃車の運転手は、タンクに臭いがこもらぬようにするため、収集運搬業務終了後は清掃車のタンクの中を洗浄し、必要ならば磨き上げる。その作業では清掃事務所の車庫で高圧洗浄機を利用し、タンク内の水洗を行う。コロナ感染者の排出したごみに付着したウイルスがタンク内に存在している可能性もあり、洗浄の際に周囲へ飛散するミストから感染してしまう可能性もある。

この作業に当たり防護服は提供されておらず、従来と同様の手順により洗浄作業が行われていた。感染者のごみが含まれていた可能性があるタンクを洗浄する作業は、非常に感染リスクが高い。

なお、新宿区では、これらの作業への対応として、手洗い、消毒、うがい、洗身を徹底し、感染リスクを低下させる方策が採られていた。

藤井 誠一郎 立教大学コミュニティ福祉学部准教授

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ふじい せいいちろう / Seiichiro Fujii

1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部准教授などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

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