「台湾産ワクチン」接種開始が内外に広げる大波紋 野党は緊急使用許可に疑問投げかけるが…

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2021年8月23日に台湾で始まった台湾産ワクチン接種を受ける蔡英文総統(写真・Bloomberg Finance LP)

2021年8月23日午前、台湾の蔡英文総統は台湾内で開発した新型コロナワクチンの接種を終えた。8月16日に自身のソーシャルメディア(SNS)ページで接種予約をしたことを明かし、注目をされていた。

接種したワクチンは、7月18日に緊急使用許可(EUA)を取得した高端疫苗生物製剤股份有限公司(MEDIGEN VACCINE BIOLOGICS CORP)の「MVC-COV1901」(高端社製ワクチン)だ。台湾ではアストラゼネカ社製ワクチン接種が普及したが、血栓の懸念があることを理由に、中国国民党(国民党)をはじめとする野党が「アストラゼネカ製ワクチンを接種して安全性を証明しろ」と、しきりに蔡総統に訴えていた。しかし蔡総統はこれに応じることはなく、高端社製の接種予約が始まると予約したのだった。まさにこの日のためにその腕を残し、台湾産ワクチンの信頼性を自らの体で証明しようとしているのだ。

アメリカから抗原取得、技術協力を得ての開発

世界的なワクチン不足や中国による再三の妨害で、ワクチン入手が困難を極めた台湾。これまで、日本やアメリカをはじめとする友好国による無償提供で難局を乗り越えてきた。そのような中での台湾産ワクチンの登場は、台湾の人々に大きな安心感をもたらしたに違いない。日本人なら誰もがうらやむ、自分たちで開発したワクチンの誕生である。しかも、第2フェーズの治験結果がアストラゼネカ社製よりも優秀だったことで、人々の関心は相当に高い。しかし、一方で台湾内ではこれに反対する声が中国国民党(国民党)を中心に上がっているのだ。

高端社製ワクチンは組換えタンパクワクチンに属し、アメリカ国立衛生研究所(NIH)から抗原を取得、技術協力の下で開発された。同種のものでは、アメリカ・ノババックス社や塩野義製薬など各社で開発や治験が進んでいる。今回のコロナ禍で初めて使用されたファイザー・ビオンテック社製やモデルナ社製のmRNAワクチンと違い、この種のワクチンは世界中で使用実績があるものだ。

緊急使用許可(EUA)取得に当たり、高端社は第2フェーズの臨床試験で台湾全国11カ所の治験センターで計4000人(有効者3815人、最高齢は85歳)に接種し、結果をまとめた。一般的に、第1、第2フェーズでは少人数で安全性を中心に調べ、第3フェーズでは多人数による有効性や安全性を調べるとされている。ワクチンと偽薬(プラシーボ)を接種して比較するのは第3フェーズだ。しかし高端社では、EUA取得を考えて第1フェーズと第2フェーズでの治験数を通常よりも多く行い、有効性や安全性も同時に確認したのだった。

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