雨上がりの解散が「リアリティショー」化した理由 破天荒な芸人より「モラリスト」が選ばれる時代

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そしてもう一組、「吉本印天然素材」のメンバーだったのが、ナインティナインである。その後彼らは、極楽とんぼ、よゐこ、オアシズらと共演した『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)、通称『めちゃイケ』で全国的に知られた顔になる。雨上がり決死隊が、先輩芸人としてゲスト出演することもしばしばあった。

1996年に始まり2018年まで続いた『めちゃイケ』には、芸人が素の部分をさらすことを積極的に番組のなかに取り込んだ先駆的バラエティという側面があった。メンバーの結婚や不祥事、岡村隆史の体調不良による長期休養などさまざまなことが起こるなか、そうした際には、出演メンバーたちの赤裸々な思いが番組内で語られた。『めちゃイケ』は、そんな“芸人ドキュメンタリー”でもあった。

2003年にスタートした『アメトーーク!』(テレビ朝日系)もまた、雨上がり決死隊にとって特別な番組である。『アメトーーク!』は、彼らが持った単独での初冠番組であり、現在も続く長寿番組となった。

『めちゃイケ』と『アメトーーク!』の共通点

しかし、蛍原は、今回の解散に伴い、雨上がり決死隊の2人でやっていた番組をすべて降板するつもりだったという。『アメトーーク!』も、むろんそうするつもりだった。だが宮迫や周囲のスタッフなどからも説得され、思いとどまった。

その経緯を聞いた出川哲朗は、蛍原の筋を通そうとする一徹さに心打たれた様子だったが、もう一方で『アメトーーク!』は「間違いなくバラエティ史上に残る番組」であり、「笑いの金メダル」を取ったことを誇りに思ってほしいと熱く訴えていた。

まさに言う通りだろう。『アメトーーク!』は、新しいトークバラエティのかたちを切り拓いた画期的な番組である。毎回、芸人が好きな漫画やアニメ、野球、アイドルなど趣味のことから、学生時代のエピソード、極度の人見知りであるなどのコンプレックスまで、さまざまなお題を語り尽くす。そこにはやはり、ネタや芸を見ているだけではわからない芸人の素の部分が明らかになる。そして私たち視聴者は、好きなものへの愛や恥ずかしい体験談などを語る芸人の姿に自分自身を重ね合わせ、共感する。

その点、『めちゃイケ』と『アメトーーク!』は番組のスタイルこそ異なるが、本質的には共通するところがある。同じユニット出身である雨上がり決死隊やナインティナインが台頭したのは、お笑い芸人がバラエティ番組のなかで素の部分を見せ、ドキュメンタリーの主人公になっていく時代だった。

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