「人生100年時代」に「FIRE」したがる人の問題点 若いとき「無理にお金を貯める」とどうなる?

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投資に関連する近年の流行の推移を駆け足で振り返ってみたが、気がつくと、「LIFE SHIFT」の「長く働く」路線から、「早期リタイア」へと、目指す方向が真逆になっているように見える。これはいったいどうしたことか?

「人的資本」≒「個人の株価」について考えてみよう

両者は、必ずしも対立することを言っているわけではないのだが、人生の戦略を考えるにあたって重要なのは、「人的資本」について考えることだろう。人的資本とは、人の将来の稼ぎの現在価値として評価する「個人の株価」のような概念だ。

「FIRE」を目指す若者について、少し心配に思うのは、自分の人的資本に対する投資が過小になっていないかということだ。簡単に図にしてみる。例えば「100万円」を、自分の人的資本に投資した場合と、金融資産に投資した場合の、将来の損益の累積を比較してみよう。概ね以下のような関係になるはずだ。

投資1単位あたりの年齢別「累積損益」の概念図

例えば、若いときに、大学の学費を支払う、あるいは料理の修業でフランスに渡るといったことのために投資すると、その後の所得に対する損益は、生涯所得の増加を通じてかなり大きなものになることが期待される。こうした、人的資本に対する投資は、スキルの取得のための通学のような狭義の教育投資にとどまらず、旅行による見聞や、良い芸術の鑑賞、美味しいワインを味わうこと、人間関係を拡大すること、など幅広い対象を持つと考えられる。

一般論として「教育」も「経験」も、早く得るほど人的資本に対する効果は大きい。

一方、有限な人生にあって加齢とは残酷なもので、例えば、定年退職後に大学院に行っても、将来の収入増加の形でその学費の元を取ることができるかどうかは怪しい。図で「人的資本」への投資の累積損益グラフが右下で横軸を超えてマイナスのゾーンに落ち込んでいるのはそうした事情を考慮したものだ。

「累積損益」ではなくて、「将来収益」でグラフを描くと、マイナスゾーンまで落ち込まない図で説明できるのだが、「夢見る高齢者」に少し意地悪をしてみた。「学ぶならグズグズしていないで、一刻も早く学ぶほうがいい」と申し上げておく。

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