──だいぶモメてきたとか(笑)。
ムリムリってすぐ埋められちゃうこともあったし、電話口で「今行きますから!」と叫びつつ、1時間で鹿児島に行けないわけで、「お願いです、明朝まで待ってください」と懇願したり。でも最近は、理解してくださる方が少しずつ増えています。北海道から四国、九州まで緩いネットワークができてきた感じ。20年前に比べれば、ストランディング調査をしやすくなったのはありがたいです。
解剖によってわかった人気アシカの死因
──直近ではどんな事例が?
7月初旬に茨城の海岸に上がったスジイルカですかね。体長2.5メートルのイルカが漂着しているのを、海岸に来ていたウミガメ研究者たちが発見し、SNSで連絡をくださいました。20キロメートル置きにポーンポーンポーンと3体上がっていた。この時期、茨城県沖を北上し海流に乗って北海道沖へ行く、同じスジイルカの群れでしょう。
3体とも、サメに襲われたとか船のスクリューに巻き込まれたとかの外傷はなかった。1体は腐敗が進んでいたので現場で少し解剖して海岸に埋め、残り2体は回収して今うちの冷凍庫に入ってます。まだ解剖してないので漂着の原因はわからない。ただ、北海道でスジイルカの細菌感染症が見つかっているので、その線を推測しながらこれから調査していきます。
──浜に上がった個体を解剖し、知見を積んでいくんですね。
野生ではないのですが、水族館で飼育されていたアシカの仲間、オタリアを最近解剖しました。国内最高齢で水族館でも人気の子だった。死因の解明をという依頼で、最初は老衰かなと思ったんですが、飼育員さん曰(いわ)くずっと呼吸が荒かったと。呼吸器不全か心臓病を疑っていたそうです。
ところが、解剖してみると心臓はきれい。ただ右側の肋骨(ろっこつ)が5、6本折れて治癒した痕があり、右の肺がすごく虚脱していた。たぶんあの個体は飼育員さんの見えないところで骨折し、そのとき右の肺も損傷して正常に働かなくなり、呼吸が荒いまま生き永らえ、最期は大往生した。
その個体がどう生きどう死んだかという、一連のストーリーがちゃんと並んだとき、飼育員さんは呼吸の荒かった謎が解け、知らないところで事故が起こるという、次に生かせる情報を得る。そうしたことが解剖によってわかるわけです。そんなとき初めて、私たちは解剖する意義を実感します。
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