日本に年300ものイルカやクジラが「漂着」する謎 解剖することでその理由が見えてくる?

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とくに野生動物は生きてるときの情報がないので、死体から始めなければいけない。飼育個体の生前の情報を飼育員さんからもらって、それが野生の研究に生きる。「なぜ?」の疑問が出たら、死因につながる一筋の道を全力で探します。

イルカの脳に老人斑が見つかったことも

──ただ現実は、解明にたどり着けないケースが圧倒的とか。

人間が死ぬ心臓病でイルカも同様に死ぬかは不明です。野生の場合、解剖して心臓に異常があっても、生前何か症状があったかがまったくわからない。飼育個体の調査がそこで生きる。生前の様子を聞き、どの程度の病で死んでしまうのか、死なないのか、1つひとつデータを集め積み上げていく。私たちがお医者さんに行って病名がわかったり治療薬が処方されたりするのは、膨大な資料があるおかげ。それを今われわれが動物に置き換えてやっているだけです。

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アメリカ・テキサス大学で研究していたとき、打ち上がったイルカの脳に老人斑が見つかりました。イルカもアルツハイマー病にかかるのか、と思うわけですけど、やはり生前その個体に認知症があったかどうかわからないし、そもそもイルカの認知症の症状自体がわからない。ただ脳に老人斑があったという事実のみ。今後飼育個体からも老人斑が出てくれば、徐々に解明されていくかもしれないけど。

──近年の海洋汚染とストランディングの間に何か関係性は?

それが疑われる例が世界的に増えています。とくにプラスチックゴミの影響。プラスチック片に残留性有機汚染物質(POPs)が吸着し濃縮すると、海の生態系の頂上にいるイルカやクジラなどの体内に高濃度で蓄積されていく。免疫力が低下し、死ななくていい病気で死ぬようになる。POPsとして登録される数は毎日増えています。とにかく未解明なことだらけ。世界中から上がってくるデータを参考に、日々情報交換していくしかない。私の世代でできるところまでやって、次の世代が引き継いでくれればいい、そう思っています。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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