タリバン謎の「イメチェン」意図はどこにあるのか 女性の権利認めるという新生タリバンの実態

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イスラム的な価値観は時代とともに変遷し、特にインターネットの普及でSNSを通じて西側の価値観を取り込んだ若者たちは、旧来のイスラム的な価値観を息苦しく感じる人も増えている。ムハンマド皇太子は、こうした若者たちの期待に応えた半面、急激な改革に反発する宗教界を力で押さえ込み、改革をトップダウン型で強引に推し進めた。

宗教指導者が国を主導するイランも、国家が押し付けるイスラム的な価値観が若者を中心とした国民の価値観と合わなくなっている。2010年末に起きた民衆蜂起「アラブの春」を機に誕生したエジプトのイスラム組織ムスリム同胞団系の政権も、イスラム法の適用をめぐって国民の反発を招き、これに乗じた軍のクーデターで政権の座から滑り落ちている。

タリバンには表と隠された部分がある

世界的な潮流や時代背景もあり、タリバンのイスラム思想も変化したのだろうか。

タリバンは、一枚岩の組織ではなく、現場の戦闘員や司令官、組織の幹部クラスの間に考え方や路線の違いがある。農村型タリバンと都市型タリバンが存在するともいわれる。地方のタリバン戦闘員や幹部に対する欧米メディアのインタビューや取材では、女性に対する教育の禁止やイスラム的な刑罰など、かつてのタリバンと変わらない保守的な言動が伝えられている。

アフガンを取材するメディア関係者は「タリバンの表に出る部分は、しっかりとした印象だ。特にイギリスBBC放送などに出ているドーハの広報担当者は、木訥としていながら誠実に受け答えしている」と述べる。ただ、「パキスタン北部からアフガン南部にいる幹部たちは全然メディアに出ず、実態は謎に包まれている」と証言する。

タリバンは戦闘中も、国連や赤十字国際委員会(ICRC)などの国際機関と調整して、外国人職員らの安全を確保するなど現実的な対応も行ってきた。国際機関や人権団体も標的にした過激派組織「イスラム国」(IS)とは異なる点の1つであり、「タリバンは支配地域で国際機関を自分たちの行政の足りない部分を埋めるために使っている」(専門家)という、現実的かつ打算的な面も持ち合わせているようだ。

タリバンはツイッターを使いこなして積極的に情報発信し、広報担当者は、メディア関係者も手を焼くぐらいに積極的にコンタクトしてアピールすることもあるという。カブールを掌握したタリバンの戦闘員たちが、遊園地でゴーカートに乗ってはしゃいでいたという従来の「強面」のイメージとは違う姿も報道で伝えられている。

タリバンの幹部たちは近年、経済発展したドーハに滞在し、アメリカ政府と和平交渉を行うなど、アフガンという比較的閉鎖された社会を出て世界の変化を目の当たりにする機会も多かった。

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